Ancestors: The Humankind Odyssey

  • Steam/Epic Games
  • 2020年8月28日/2019年8月27日

PC版 v1.0~v1.1 の感想です。 クリエイティブディレクターがインタビューで、PS4などの家庭用ゲーム機で発売するときはゲームプレイの分かりにくさなどについて何かしらの調整をする予定であるという感じのことを言っていたみたいです。 4Gamer.net [TGS 2019]「Ancestors: The Humankind Odyssey」のクリエイティブディレクターに話を聞く。1000万年前から人類へ続く道を歩むゲームは,なぜ生まれたのか IGN Japan 猿から人への進化を描く『Ancestors: The Humankind Odyssey』の魅力は「未知」であること――開発者が語る PS4版とXbox One版は2019年12月6日発売で、PS4だと「アンセスターズ:人類の旅」というタイトルになるみたいです。

このゲームを楽しむにはプレイヤー自身による絶妙なサジ加減が必要なんじゃないかなと思います。ゲーム側がそれを導いてはくれません。その加減を間違えると「意味が分からない」か「退屈で面倒」のどちらかになってしまいます。しかも、加減の幅はピンポイントと言ってもいいくらいに狭いです。 そのポイントというのは "ゲームの仕組みを理解しつつも理解しすぎない" です。 それほどゲームが得意ではないという人にとっては、このポイントになかなか到達できないため意味が分からないゲームになるし、ゲームが得意な人にとっては、このポイントに早いうちに到達して通り過ぎてしまうため退屈で作業感の強いゲームになってしまいます。 また、人類になるかどうかについては結果だけであって、人類としての生活を楽しむことはできないというのがプレイするにあたっての最大の注意点でもあり、最も残念なところでもあります。

プレイしているとお猿さんが苦しみ始めたり何かしらのアイコンが表示され足をひきずっていたりします。でも、どうすれば解決するのかをゲーム内で説明してくれません。そして、何かしらの行動によってそのアイコンが消えて元気になったり別のアイコンが表示されたりします。 大抵のゲームであれば「このアイコンは毒状態を示しています。これは毒消し草を食べることで解決できます。毒消し草は店で買ったり道で拾ったりできます。蛇が多い場所には毒消し草を多めに持って行きましょう」と説明してくれることを、プレイヤー自身がゲームプレイの中で見つけていくことになります。 これがどういうことかというと、つまり、プレイヤー自身がゲームプレイによって Ancestors という世界の仕組みを知り、プレイヤー自身が Ancestors というゲームの説明書を作っていくということなんだと思います。 そして、ゲームの仕組みを知り学習していくという体験が、お猿さんたちの成長という要素と一致したとき、それは Ancestor から Humankind へという過程の体験だと感じることができます。 ルールがあり説明があるのではなく、そのルール自体をプレイヤーが見つけていく。これをゲームだと言っていいのかという話にもなりそうですが、ともかく Ancestors: The Humankind Odyssey というのはそういうゲームなんだと思います。

そのゲームの仕組みを理解すると、ゲームプレイの先にあるものを予想してしまうと思います。道具を作るスキルがある、石を割ることができる、木を削ることができる、この3つの仕組みを知ったプレイヤーは「ああ、いつかは手斧を作ることができるんだな」と考えます。でもこのゲームを楽しむにはそれを考えてはいけない。これから何をできるようになるかではなく、今理解できている仕組みと今の能力で今何ができるのかという "今のこと" だけを考えてプレイする必要があります。 それはどうしてかというと、このゲームはそこまで壮大ではないからです。「手斧を作ることが壮大?」と思うかもしれないのですが、お猿さんたちにとっては武器を作ることも火をおこすことも、それらは未知のことなんです。 こうしたらああなった、そうしたらどうなった、という事実だけを知る。その先のことは考えない。今に全力。そして何に全力だったか、それがお猿さんたちの能力の向上に影響し、それはプレイヤーが何に興味を持っていたかによって変わります。 Ancestors: The Humankind Odyssey というのはそういうゲームなんだと思います。

ゲームの世界の仕組みを知り自分のゲームプレイが上達していく過程と、お猿さんたちが成長し進化していく過程、この2つがイコールであると感じることができたときに、このゲームを楽しいと感じることができました。 ゲームの仕組みを理解するということ自体がプレイ体験として重要になるため、ゲームプレイを通してではなく攻略情報などで先に把握してしまうと楽しめなくなる可能性があります。 多分、プレイしているうちに「これをするとどうなるんだろう」といったことを実際に試す前に知りたくなることがあると思います。けれども知ってしまうと面白くない。それで終わり。実際にプレイする前に「ああそうなんだ」で終わり。あとはゲームクリアに向けて淡々と進めるだけになります。 1つずつ1つずつ何かを理解し、"お猿さんのゲームをプレイしている" ではなく "お猿さんがゲームをプレイしている" と思えるくらいの感じで進めるのが Ancestors: The Humankind Odyssey を楽しむコツなんじゃないかなと思います。

このゲームを楽しむためのプレイスタイルは凄く限定的だと思います。少しでもそこから外れるとダメかもしれないです。ゲームが大好きなプレイヤーは、ゲームが上手いがために楽しめないかもしれない。サクサクと進めることができる要領のいいプレイヤーにとっては退屈で面倒なだけのゲームかもしれない。ゲームに不慣れなプレイヤーにとっては意味の分からないゲームかもしれない。 プレイヤーはビデオゲームのお約束みたいなものを十分に体験し理解しコントローラーの操作にも慣れているけれどもゲーム初心者である、というかなり無理難題なプレイスタイルを要求される。 でも、その無理難題をクリアしたとき、このゲームは驚くほどの没入感を提供してくれました。もはや進化の早さとかはどうでも良くて、今を全力で楽しむ。その結果がゲームクリアであればいいしクリアできなかったとしてもそれでいいという感じでした。

ゲームプレイですが、プレイ時間はプレイヤーによって凄く幅があると思います。サクサクと仕組みを把握し細かいことを気にしないお猿さんなら40時間ほどかもしれないし、なかなか把握できなかったり色々なものに興味を示すお猿さんなら80時間以上になるかもしれません。 プレイ中は、その行動の結果とか何かしらの解決方法とかを "先に知ってしまいたい" と思うことも多かったです。でもそれをしてしまうと自分はこのゲームを楽しめないだろうと何となく思っていたので、自分で色々やってみるという感じでした。 ただ、どういうプレイスタイルであっても、ゲームクリアを意識し始めると作業感の強いものになります。この状態になってしまう時期はプレイヤーによって違うと思いますが、早い人だと10時間ほどで感じてしまうかもしれません。

時代を進めることでお猿さんが進化します。何回か時代を進めていき、最終的に人類へと進化すればゲームクリアです。 進化させるためには条件を満たしている必要がありますが、条件を満たしているのであれば、いつ進化させるかはプレイヤーが好きに決めることができます。 1回の進化でどれくらい時代を進めることができるかというのは条件によって変わり、「進化の功績」というものを多く達成しているほど長い時間を進めることができます。この功績は「○○を2回以上作る」といった条件を満たすと増えていき、功績が多いと数百万年進むこともあるし、少ないと数十万年しか進まないこともあります。功績とは別に「ひたすら子供を産み続ける」という方法も理屈としては可能ですが、何人産めばいいのかは計算する気にもならないほどの回数になります。

できるだけ多く時代を進めるためには進化の功績が重要になってくるのですが、功績の達成条件は実際に功績の条件を満たすまで分からないようになっています。そのため、とにかく色々と試して、何かしらの結果を得られた行動を繰り返すことになります。そしてそれが、プレイヤーを退屈させてしまう大きな原因となります。 試行錯誤の結果として功績の達成があるのですが、結果を知ってしまえばそれに対する興味は薄れてしまいます。それなのにクリアのために同じことを繰り返すことになる。ゲームプレイを楽しんでいたら功績も増えていたという感じだといいのですが、功績を増やすことを急いでしまうと退屈なゲームになってしまうと思います。 これを回避するにはゲームクリアを目的としない楽しみかたをするしかないです。

お猿さんたちは「ニューロン」という、いわゆるスキルツリーによって能力を向上させることができます。このニューロンは、どういう行動をしたかで発達の方向が変わります。ひたすら植物や動物を見つけていれば何かを認識をする能力の強化が進むし、道具を作り続ければ器用になっていきます。積極的に地上に降りて他の動物と対峙することが多ければ危険を回避する能力が向上します。しかし、向上させた能力は1世代だけのものです。世代が変わると失われてしまいます。それを次の世代に渡すためには「定着」という仕組みを利用します。 定着が可能な能力の数についてはハッキリと分からないのですが、子供が多いほど次の世代に渡せる能力は多くなるっぽいです。 そうやって能力を増やし定着させていくと、世代を進めたときに始めから能力の高い状態で開始することができるようになります。

子供がとても重要です。子供がいないとそもそも世代交代ができないし、大人のニューロンを発達させるには子供がそばにいる必要があるからです。子供がそばにいない場合、大人がどれだけ行動をしてもニューロンは発達しません。そのため、基本的には子供を抱えて動き回ることになります。 子供を抱えて探索に出かけ、うっかり他の動物に大人がやられてしまったら、子供を安全な場所に待機させて他の大人で助けに行きます。全力です。再度襲われても大丈夫なように骨折を治せる食べ物を持ち、出血を防げるもの塗り、木を加工して向かう。子供の鳴き声を聞き、なだめ、そして定住地に戻る。子供だけで定住地に戻ることもできるのですが、子供は凄く小さいので、マップが凄く広く感じるし木もより高く感じてしまいます。さらに恐怖で視界が悪くなってしまうので、隠れ場所を見つけて待機させることが多かったです。

定住地にピッタリの場所を見つけて移住することができるのですが、初めての移住のときは大変でした。先に「捕食者」と呼ばれる凶暴な動物を倒しておいて安全なルートを確保しての移動だったのですが、妙に不安でとにかく先に先にと進んでいました。途中で腹が減ったので植物の実を食べたら何故か皆が崖の下の植物のところに飛び降りてしまうという謎な行動。「いやみんな、そこね、ワニいるんだよね……だからここ通ってるんだよね……」と取りあえず落ちてる石拾って自分も飛び降りようと思ったとき、ワニが直前でピタッと止まって引き返して行きました。上で眺めてたときなので良く分からないのですがバグだったのかもしれません。 そして無事移住して寝て起きて塗り薬とか作っとこうと移動していたら……。下見してたときは全く見当たらなかった捕食者に襲われました。これはヤバイと思い、すぐ皆に道具を渡して回りました。下見のときに念のため人数分作っておいたんですよね。本当に良かった。襲われたときに反撃できる能力も取得しておいてからの移住だったので、無事に仲間が倒してくれました。 このときのプレイ体験は、能力を向上させ、より良い地を求めて移住し、そして生き延びて進化するという、ゲームの趣旨にピッタリな感じで凄く印象に残っています。

知ったこと身に付けたことを利用して今できることをするというのが重要だなと思いました。色々と試してその結果を知る。そして次のことに興味を向ける。それを繰り返しているうちに自然と功績が増えていき、ニューロンも発達していきます。 それ以上のこと、例えばより良いものを作りたいとか効率を良くしたいとか攻略したいとかを考えてしまうと「あれ?これだけ?」とがっかりしてしまうと思います。また、長時間プレイしていると1世代だけでも十分にニューロンを発達させることができるし、功績もある程度まで増やすことができます。そうなると次の世代に移って再びニューロンを発達させるときに、プレイヤーにとって新鮮で興味を持てる要素自体が少なくなってしまっていて退屈な作業に感じてしまうかもしれません。その世代に愛着が湧いてしまい、世代交代が惜しくなってしまうこともあります。そのため割りと軽めのプレイを意識して、1世代での発達はそこそこに、楽しいと思えている間に世代交代や進化をさせていくのがいいのかなと感じました。

Ancestors: The Humankind Odyssey。 あるゲームを楽しむためには仕組みを理解する必要があります。その仕組みがゲームのルールになるからです。ルールが分からなければプレイできないし楽しみかたも分からない。けれども Ancestors は、仕組みを理解することそのものをゲームとして楽しむという体験でした。それはまるで自分自身がプレイヤーとしての Ancestor になるという体験でもありました。 仕組みを理解しきってしまえば退屈なゲームになる可能性が高いです。特にゲームクリアのための仕組みを理解したときは面倒に感じて顔をしかめてしまいました。もしかしたら、できるだけゲームの仕組みを理解するのを遅らせたほうが長く楽しめたりするのかもしれません。