Great God Grove
- Steam
- 2024年11月16日
日本語未対応です。 「Smile For Me」のディベロッパーによる新作です。とても奇妙で愉快なアドベンチャーですが、びっくりするほど素敵なストーリーと、そしてプレイ体験を提供してくれます。「ホントかよ」と思うかもしれないですが、パブリッシャーが Fellow Traveller だと聞けば興味をそそられるのではないでしょうか。 「Grove」への旅行のため船に乗っていた主人公。その途中で謎の道具「Megapon」を入手します。しかし、それによって郵便配達の王「King」の使いと勘違いされ、Grove で起こっているトラブルに巻き込まれてしまいます。
主人公が入手した Megapon は何かを発射したり吸い込んだりできます。物だけでなく会話のテキストを吸い込むこともでき、それを発射して誰かにぶつけると会話が変わりゲームが進行するというシステムになっています。例えば、通せんぼしているキャラクターが「私はここを動かない! それが自分の仕事だから!」みたいな主張をしている状況だとします。そこで、その指示を出している上司に話しかけて「ようこそ、旅の人だね?『ゆったりとくつろいでくれ』」といった会話をし、その「ゆったりとくつろいでくれ」というテキストを吸い込みます。そしてそのセリフを通せんぼしているキャラクターにぶつけると「ボスがそう言うのならそうします!」と移動してくれます。 また、会話における「はい」と「いいえ」の選択がなくて、コントローラーの右スティックを操作して意思を示すというメカニクスになっています。相手の問いかけに対して右スティックを上下に動かせば同意で、左右に動かせば不同意になります。 それらを利用して、住人たちの抱えているトラブルを解決していきます。 これだけです。このゲーム「Great God Grove」についての説明はこれだけです。 しかし、それらのメカニクスが実現する "テキストによらないコマンド選択" という体験は、テキストが重要なアドベンチャーでありながら、プレイヤーがコントローラーを操作してゲームの世界に影響を及ぼしているんだという実感を提供してくれます。そしてその実感は、プレイヤーは決してその世界の外にいる第三者ではなく、その世界で一緒に生きているんだという感覚に至ります。
ゲームプレイですが、プレイ時間は英語がペラペラなら8時間ほどだと思います。住人との会話をじっくり楽しむと10時間くらいになるかもしれません。私は辞書で単語を調べるなどして18時間でした。 テキストを吸い込んでそれを誰かにぶつけるというメカニクスが重要で、他については「細かいことはどうでもいいんだよ」という感じでとても軽快です。マップも必要な分が収まっていればいいみたいな感じで無駄がありません。そして住人との会話を途中で終了したい場合は、普通にその場を離れてさよならするという割とひどい行為が通用します。 Megapon に入れておけるテキストや物は5つで、他に吸い込みたいものがあった場合は何かを発射して捨てなければなりません。でもそんなの全然気にする必要はなくて、普通に捨てればいいです。捨てたものは時間が経過するとその場から消えてしまいますが、物ならもとあった場所に復活するし、テキストならまた話して吸い込めばいいです。 何を誰にぶつけるかというパズル以外は、本当に何も気にする必要はないというデザインになっています。
テキストを吸い込んだり発射したり右スティックの操作で意思を示したりするメカニクスは、ゲームを開始してしばらくは煩わしいかもしれません。しかし頑張って慣れましょう。そこを否定するとこのゲームのプレイ体験は大きく変わってしまうというくらい、とても重要なメカニクスです。 ゲームの導入部はとてもいい感じです。プレイヤーにとってはすべてが突然に始まるわけですが、むしろそれがサスペンス風味に拍車をかけてくれます。序盤での会話などで得られる「なるほど、そういうことなのね」感は、Grove のことをもっと深く知りたいという欲求を引き起こすでしょう。 各キャラクターの表情は豊かで、会話中に様々な変化を見せます。そして、たとえハズレであっても、ぶつけられたテキストに対してしっかりと会話を進めてくれます。そうしたテキストを読むというプレイヤーの楽しみ方への配慮は素晴らしいと思います。
ストーリーは素晴らしいです。 Grove には king という人物がいて、"言葉を運ぶ" という活動を行い人々に愛されていました。しかし King は行方不明となってしまい、それ以降 Grove では様々な問題が起こっています。その King が使用していた道具が、主人公が偶然入手した Megapon だったというわけです。 Megapon を持つ主人公は Grove の人々から King に近しいものだと勘違いされてしまい、トラブル解決に奔走することとなります。 全体的にやさしい雰囲気でありながらも、King の不在によるコミュニケーションの欠如が及ぼす影響と、主人公の出現によってもたらされる解決をとても上手く示せていると思います。
Grove は神々によって治められていて、その神は人々の中から選ばれます。そのとき空に裂け目が出現し、その人はその裂け目を通って神となり、そのあとで神々の協力によって裂け目は閉じられます。 そして今回選ばれたのが King です。King は裂け目を通って "Communication God" になるはずだったのですが、行方不明になりました。その結果、裂け目が広がり続けて世界は危機に陥っています。 さらに、神々のもとには King からとされる手紙が届いていて、そこには神々を悲しませたり惑わせたりするようなことが書かれています。それによって、それぞれの神が治めている地域で問題が発生しています。 主人公が向かう地域には漏れなくトラブルが発生していて、それらのトラブルは、"Leadership God" である Inspekta という神により仕組まれたものでした。King からとされていた手紙もすべて Inspekta によるもので、そして King は Inspekta によって幽閉されていたのです。 主人公はそのことを知り、解決のため空の裂け目へと向かいます。 ここからがこのゲームの凄いところですが、まず、King は "Communication God" として神になること、そして Inspekta は "Leadership God" であることを理解しておく必要があります。 Inspekta が起こした騒動は「誰よりも崇拝され、名を残したい」という欲求によるものでした。Inspekta は King が人々に愛されていることを考える中で、自分は価値がない神なんだという不安と孤独を経て「自分は適切に評価されていない」という憎しみを抱いたのです。 Inspekta の苦悩を知った他の神々は「必要とされないこと、忘れられることは誰だって怖い。それらを怖がることは恥ずかしいことではない」と説得し、そして Inspekta は正気を取り戻します。しかしそのとき、空の裂け目は神々が閉じることができないほどに広がっていました。 そうして「もう手遅れだ、本当にすまない」とうなだれる Inspekta の前に、BizzyBoys という Inspekta の組織のメンバーが集結します。 それは都合のいい話だと思いますか? その通りです。しかし、その力技は見事に成功しているんです。 Inspekta は神になる前、BizzyBoys を結成し、その活動によって Grove の人々を助けていました。それが認められて神になり、現在も BizzyBoys を導いています。しかし Inspekta が正気を失っていく過程で BizzyBoys の活動もおかしなものになり始めていました。そして主人公は、Inspekta はもはや自分のことしか考えていないということを BizzyBoys のメンバーに突きつけたのです。 それによって Inspekta は BizzyBoys に見放されたと私はそう思っていました。しかしそれは間違いでした。 私は、Inspekta は自分のしたことの責任を痛感し、BizzyBoys にも見放されたと思っていました。つまり Inspekta は孤立したと考えていたんです。物語における孤立した者の末路は、ときに最悪のものとなります。私はその可能性を否定せずに結末を待っていました。 そこに現れたのが BizzyBoys で、そしてこう言いました。 「ボス、何してるの? 人々の記憶に残りたいのなら、世界を救いましょう」 BizzyBoys のメンバーは確かに組織の現状に嫌気が差していました。しかしそれでも、Inspekta のことを "自分たちの居場所を提供してくれたリーダー" として慕っていたんです。 "You made us feel included." この最後の最後に用意された "誰も孤立させない" というプロットは、私の涙腺を崩壊させました。私はコントローラーを握りしめながら、体を45度くらい左に傾けて泣いてました。 世界を消滅させようとしたリーダーを慕い続けるというのは危険なことに思えるかもしれません。しかし、それさえもこのゲームの物語は解決しています。それが、Inspekta に自分が何をしたのかを気づかせたこと、そして Grove の世界の仕組みを変えたことです。 BizzyBoys の協力によって空の裂け目は閉じられましたが、Inspekta は自身の判断で人間に戻りました。そして裂け目を通った King は神となりました。これによって "Leader" という神と "Communication" という神が交代したんです。それは Grove の世界の仕組みが変わったことを意味します。 Inspekta が BizzyBoys のリーダーであることは変わっていないとしても、社会の仕組みが変わったのなら、同じ過ちには至らないでしょう(至らないはず)。 この "Leader" から "Communication" への変化は、まるで現実の社会における変化を予言するかのようなストーリーだなと思いました。
音楽もすごくいいです。全体的にすべての音が同じくらいの音量で前面に出てくる感じなので、アドベンチャーの劇伴としては少し疲れてしまう感じもありますが、それでもゲームプレイとその体験を支える重要な役目を果たしていると思います。 主人公が訪れる最初の地域 Grove Cove では、エレベーター・ミュジック的というかラウンジ的というか、そんな感じの落ち着いた雰囲気の曲でプレイヤーを出迎え、それが一転、不毛の地とか生贄とか不穏な雰囲気の Milldread ではアコースティックギターやバンジョーによる暗めの曲で不安を煽ります。少し気が滅入りますが、その分トラブルを解決したときの明るいスワンプな曲に物凄く癒されます。 その次のラブとストーリーテリングの神が住む HobbyHoo はとても多彩で、全体的にロックっぽいサウンドのリズムとベースにしつつ、電子オルガンのハーモニーによる明るいサイケデリック的なもの、ダブルベースによるアシッド・ジャズっぽいもの、4つ打ちに歪んだシンセピアノを乗せたダンスミュージックなど、音楽の町と思えるような感じになっていて楽しいです。 最後の地域 BuzzHuss はアートの町といえる場所ですが、この地域はエンディングに向かうための重要なストーリー展開を提供していることもあってか、割と緊張感のある雰囲気になっています。 そしてラストへ向けてのマップでは、それまでとはまったく異なる Breakcore 風味の激しいサウンドに変わり、やがて最終決戦の曲「Final Chase」へ。これまでの地域の様々なサウンドを織り交ぜながらタイトル曲のメロディーを淡々と繰り返し、けれども少しずつテクスチャが激しく、そして明るくなっていき、最後はラスボスに関連したメロディーになだれ込んで終了します。 それらの騒々しい状況のあとで流れるアコースティックの穏やかな曲「What Happens Next?」は、これで終わりなんだという達成感と寂しさを代弁してくれているかのようでした。 一番好きな曲は Grove を創造した神 Miss Mitternacht の曲で、タイトルはそのまま「Miss Mitternacht」。 これは電子オルガンのハーモニーによる静かな曲ですが、荘厳さや神様っぽい感じではなく、とても可愛らしい雰囲気になっています。それが Mitternacht の可愛らしさと相まって、凄く印象的でした。
Great God Grove。 そのとても奇妙で愉快で非現実的な世界は、だからこそ私たちが共有する不偏の何かを描くのに適しています。 そこにはコミュニケーションというコンセプトが漂っていて、プレイヤーはその世界で King が行っていた "言葉を運ぶ" という活動を体験します。そしてその体験はストーリーと決して分離することのない重要なものとなります。 そうして様々な地に赴き Megapon を駆使して進めていくというゲームプレイはアクションアドベンチャーのそれに近くて、色々なところに旅してる感があります。にもかかわらず、テキストが重要なアドベンチャーとしてのゲームプレイも確実に提供してくれます。 もしかして、もはやアドベンチャーとアクションアドベンチャーを区別する必要なんてないのでしょうか。そんなことを考えたくらいに、コントローラーを操作するということとテキストを読むということがしっかりとかみ合った、素敵な体験でした。