Beyond Galaxyland

  • Steam/Nintendo Switch/PlayStation 4/Xbox One, XS
  • 2024年9月25日

例えば「OCTOPATH TRAVELER」はドット絵に光と影を施した美しい映像を提供したし、多くのインディーがドット絵のRPGを発売している。私はそれらの映像に日本を感じたが、しかしそこはかとなく、懐古や過去への憧憬、そういった何かを抱えてプレイしていた。 それらは過去の日本のゲームを再評価しそれを再現したものと思える。もちろんそれはとても嬉しいことだが、同時に私は、その体験に対する懐旧や郷愁から解放されたいと願い、思案する。 日本のゲームがピクセルグラフィックスやシンセティックなサウンドを捨てていなければどうだっただろう。そんな妄想をせずにはいられないゲームたちが日本の外から提供されている。「Hyper Light Drifter」「Children of Morta」「Eastward」「DAVE THE DIVER」、他たくさん。それらのHDな解像度を前提としたピクセルグラフィックスとサウンドは、ドット絵とピコピコ音が進んだ先にある風景だろうか。日本のゲームがそれを捨てていなければたどり着いたはずの風景だろうか。いや、きっとそうだろう。 そしてこの「Beyond Galaxyland」もそうだ。日本のゲームが進むのをやめたその道を素直に進んでいったかのようなその体験に、ノスタルジックなセンチメントはない。だから私は、思い出補正という亡霊に悩まされずに済む。

2.5Dと呼ばれる映像のRPGで、描画は3Dだがカメラを固定することによって横スクロールの2Dのように見せている。2.5Dというのは、以前は3Dのように見える2Dを指す言葉だったらしいだが、現在では逆に2Dのように見える3Dも2.5Dと表現されている。 主人公のダグが友人のロージーを家の外に待たせ両親と話をして戻ると、ロージーはいなくなっていた。そしてロージーを探しているとき、謎の人物に出会い追いかけられる。逃げる途中で洞窟に迷い込んだダグは奥にあったポータルに入る。 やがて気を失っていたダグが目覚めると、そこはネオと呼ばれる見知らぬ惑星だった。そして不思議なロボットに「地球は終焉に感染した同胞に蹂躙されていて、地球人を助けるためにポータルを設置した」と聞かされる。 果たしてダグの運命やいかに。

コンバットのメカニクスとしてQTEを採用していて、敵の攻撃に対してタイミングよくコントローラーのボタンを押すとダメージを軽減できる。これは防御のときのみで攻撃するときは関係ない。 各キャラクターにはターンポイント(TP)が設定されている。TPは1ターン内で可能な通常攻撃の回数を示していて、TPの分だけ連続で攻撃できる。そしてパーティで共有するアビリティポイント(AP)がある。APは各キャラクターの特殊技を使用するためのもので、攻撃が命中すると1ポイント獲得し、外すと2ポイント失う。防御のQTEに失敗したときも2ポイント失う。攻撃せずにターンを終了するとTPをAPに変換できる。また、攻撃を開始していても、途中でキャンセルすれば残りのTPをAPに変換できる。 エンカウントは敵と接触してコンバットを開始するシンボルエンカウントだが、戦闘開始前に攻撃してダメージを与えることができるというメカニクスになっている。もし倒すのに十分なダメージを与えればそれで倒すことができアイテムも落とすが、経験値はコンバットを開始しないと獲得できない。 モンスターは捕獲可能で、捕獲の難易度はモンスターによって異なる。捕獲したモンスターは召喚ポイント(SP)を消費して召喚することができ、そのモンスターのレベルを上げることもできる。

ゲームプレイについては、まずプレイ時間は16時間ほどだと思う。サブクエストなどのコンプリートを目指すと20時間くらいになると思う。 このゲームはとてもスロースタートで、パーティーメンバーの入れ替えや自由な探索などのメカニクスが解放されるのは8時間くらいプレイしてからになる。それまでの「楽しいんだけど、どうなんだろ」という時間に耐えられるかどうかは大きい。そこからは、自由にサブクエストをこなしたり、ちょっとした闘技場や最強のモンスターの討伐に挑むといったRPGらしい体験が待っている。どうしてそういう調整になったのかは分からないが、このゲームは間違いなくゲームプレイ全体で考えないと楽しめないゲームだと思う。 基本的には、ストーリーを追うだけでなく行けるところはすべて行ってみるというスタイルがいいはず。各エリアには推奨レベルが表示されるが、それでもとりあえず行ってみて、敵が強すぎたりするのであればあとで再訪すればいい。ただし、事前のセーブは忘れずに。 ストーリークリア後はニューゲームプラスが追加され、クリア時のアイテムなどを引き継いでプレイできる。また、ニューゲームプラスをプレイ中はオプションでQTEの難易度と敵の強さを変更できるようになる。 収集要素として写真集めがあるが、各ボスの写真には注意したほうがいい。ボスは一度倒してしまうと出会えなくなるので、撮り忘れるとコンプリートできなくなる。その場合はニューゲームプラスで撮影することになる。

世界観などをしっかりと作り込んで没入感ありそうに見えて「このゲームはオートセーブしません」とか「メニューからクエストを追跡できます」といった説明を普通に出してくるし、色々と深刻な状況であることをプレイヤーに説明しながらも、突然にアイテムを渡されて始まるゲームプレイ。そしてあきらかにテクノロジーの発達した世界で「木の剣」を装備している主人公。そういった気持ちのいい開き直りにも思える進行や設定はとても愉快で、むしろ嬉しい。 ストーリーは都合のよさが気になるときもあるが、プロットはしっかりしているからそれでいいと思う。ゲームプレイの楽しさからくる勢いで魅せるストーリーだって、ビデオゲームのナラティブだ。そして記憶に残るようなストーリーもある。例えば引退を待つ案内役のボットが結局ダグの手助けを続けることになる過程は面白いし、与えられた役割をこなす存在であるそのボットが、自らの判断で行動し、そしてダグを助けるという役目を見つけるシーンは、ロボットが心を獲得するということを表現できている。 テキストの日本語への翻訳の質は残念ながら完璧とは言えないが、各イベントだけでなく町の住人との会話も豊富に用意されていて、テキストを読むことの楽しさを提供してくれている。それらはRPGらしいプレイ体験になると思う。

コンバットは、中盤まではQTEに失敗しても回復アイテムなどで何とかなる感じだが、終盤になると厳しいかもしれない。ただ、タイミングについては割と余裕があるので、例えば「Keylocker | Turn Based Cyberpunk Action」のような「これは修行か何かか?」と思えるような難易度ではない。敵の攻撃には必ずタイミングを計るための動作やエフェクトがあるので、しっかりと見ていればタイミングを把握できると思う。もし無理そうなら、敵のレベルより3レベルくらい上げてから挑めば楽になるはず。 キャラクターの育成は複雑なものではなく、武器とアクセサリーの2つになる。アクセサリーは4つ装備でき、力を上げたりTPを増やしたりといったパッシブスキルを付与する。しかし、このパッシブスキルというのは厄介なメカニクスで、特定の能力に特化したキャラクターが強い傾向があったりするし、そうしたほうが楽しかったりする。例えば、TPを増やしたキャラクターのターンを何もせずに終了させてAPを増やす、回復アビリティを持っているキャラクターの防御力を上げる、攻撃力を上げたキャラクターでひたすら殴るなど、そういった各能力に特化したキャラクターを用意することで、コンバット時の役割分担がハッキリして戦いやすくなることもある。 そうしたキャラクター育成にパーティーメンバーの入れ替えが加わって、本格的にシステムなどを楽しむことができる。しかし、そうなるまでに時間がかかる。やはり辛抱が必要だ。

このゲームの映像を詳しく説明すると、複数枚のスプライトによる Parallax scrolling を利用して3Dのように見せた2Dの2.5Dを3Dで再現した2.5Dという、もはや意味の分からないものになる。そこに、ライティングとシェイディングによる光と影の表現をテクスチャに施し、さらにポストプロセスによる各種エフェクトを加えた映像となっている。 明るいところは明るく、暗いところはしっかりと暗く描くその映像は奇麗だが、慣れるまでは見にくいと感じるかもしれない。色や輪郭のぼやけを表現する色収差はオプションで無効にできるが、画面の四隅をかなり暗くしている強めのビネットを無効にできないため、色収差を無効にしても、実際にはボヤけていないが感覚的にはボヤけているように思えてしまうときもある。これについては本当に慣れるまで辛抱するしかないだろう。

音楽はエレクトロニック・ミュージックだが、そのシンセティックなサウンドは Trap に寄せていて(というか Trap そのものかも)キックとベースが強烈。もちろんハイハットのパターンも複雑で、とにかくドラムとベースが主張してくる。サブベースは普通に80Hzとかで鳴ってる感じで、それをキックに合わせてくる。そして音場を一杯に満たすといったことをせずメロディーを乗せてくる程度なので、ことさらにドラムとベースが目立つ。このサウンドは、実際にSteam掲示板では音楽について不満を述べているユーザーもいるが、好き嫌いが分かれるとは思う。 現在のサウンドとなるとクリアで高音質なのは当然だと思うが、RPGのBGMとして Trap を選択するのは珍しいかもしれない。そのため、このゲームの音楽を楽しむには、少なくともブックシェルフのオーディオ用スピーカーをある程度の音量で鳴らすか、それが無理ならヘッドフォンを使用したほうがいいと思う。 そんなサウンドを終始聞かせておきながら、最後の曲「Together At Last」。これはズルい。エンディングに向けての場面で流れる曲だが、唐突なピアノのアルペジオを聞いて私の呼吸は数秒間止まっていたかもしれない。ラスボスを倒して最後の展開を待っていたのだが、まさかRPGのエンディングらしい曲が来るとは思っていなかった。音楽による力技としか思えないその感動は、反則だと思う。 その曲を聴きながらこれまでのゲームプレイを振り返る時間は本当にしあわせで、ああRPGをプレイしたんだと思わせてくれた。相変わらずベースはブンブン鳴っていたが。

Beyond Galaxyland。 もし日本のゲームがピクセルグラフィックスやシンセティックなサウンドを捨てずに進んでいたなら、きっとこうなったであろうという体験がそこにある。 私はこのゲームに出会えて良かったと思っているが、感想を公開することはないだろうと考えていた。確かに楽しんだけれども書くことは特にないと思っていたからだ。しかしいざ書き始めてみると、それは単なる言い訳であることが分かった。このゲームの体験を説明するには実に多くの言語化が必要で、私はそれが面倒くさかったのだと思う。だから「ああJRPGだね」の一言で終わらせたかったのだろう。 2022年に「Samurai Bringer」がローポリ3Dのコミュニティに殴り込みをかけた。そして2024年に「SONOKUNI」がピクセルグラフィックスとエレクトロニック・サウンドというコアゲーマーの領域に挑む。はずだったのだが SONOKUNI は2025年に延期となった。このあと「では2025年はどうだろう」と続けるつもりだったのにどうしてくれようか。 なんにしても私は、日本のゲームに少しずつとはいえ出会えるようになり始めた現在、ノスタルジーではない "今のピクセルグラフィックスなJRPG" を渇望している。