メタルブリンガー
- Steam/PlayStation 5
- 2025年3月12日
2022年に「サムライブリンガー」をブン投げてこじ開けたグローバルなコミュニティへの入口。そこから再び放り投げたのが、この「メタルブリンガー」です。 サムライブリンガーと同じくローグライトを採用しているアクションですが、今作はキャラクタービルド系のハクスラに近いゲームプレイになっています。 メル・ラボの冷凍装置から目覚めた主人公スーリア・ユーガ。しかし、同じく目覚めるはずだった他の人々はいない。母サティーの残したVRメッセージによれば、総合管理システムであるシヴァがシステムを乗っ取り、他の人々のコールドスリープを維持しているらしい。 スーリアはシヴァをリセットして管理者権限を取り戻すため、AI非搭載型レイバーを操縦して外に出る。
各フロアのマップや出現する敵は毎回異なります。最終盤のボスを除き、ボスも毎回異なります。 操作できるキャラクターは調査用の人型ロボットである「レイバー」と戦闘用メカ「アームズ」があり、アームズへの乗り降りはいつでもできます。 装備については、レイバーはヘッド、ボディ、右手武器、左手武器の4つで、ヘッドとボディについてはどれを選んでも性能差はなく、実質的にはスキンになります。アームズは下半身用パーツと上半身用パーツに加えて武器を最大で4つ装備でき、武器をいくつ装備できるかは上半身用のパーツで変わります。 どの装備も色を変更できますが、各装備の部位が細かく設定されているのでかなり自由に変更できます。そして装備の色は属性にもなっていて、ダメージの増減に影響します。 レイバーとアームズの強化はアセンブルによる装備の変更と「APPディスク」でのパッシブスキルの付与で行います。APPは攻撃系、防御系、燃費系などとても多くの種類が用意されています。
ゲームプレイですが、プレイ時間は予想できないです。ローグライトなアクションに慣れている人だと6時間くらいでクリアはできるかもしれないですが、あまり慣れていない場合ややり込みを考慮すると12~20時間以上で考えたほうがいいかもしれないです。私はローグライトが下手なこともあり、とりあえずのクリアまで30時間近くかかってます。自然とやり込みながら進めていたという感じです。 とにかく出撃して装備とAPPを集めます。そして序盤と中盤と終盤でプレイ体験が異なります。 まずゲーム開始時の序盤は当然弱いので立ち回りなどが必要なときもありますが、1~2時間ほどすればそんなのどうでもよくなります。「細かいことはどうでもいいんだよ」とひたすら殴って撃って敵を倒していくという Beat 'em up となり、あと一回もう一回と時間が過ぎていきます。 そして中盤、具体的には2体目のボスを倒したあとのフロアですが、難易度が跳ね上がります。大量のアームズが襲い掛かってきて「これ無理じゃない?」となります。そこからグラインドと呼ばれる本格的な稼ぎが始まりす。装備とAPPの組み合わせを考えトライ・アンド・エラーを繰り返すハクスラ風味に変わり、やはりあと一回もう一回と時間が過ぎていきます。 最後に終盤。グラインドの成果によるキャラクタービルドを活かすための立ち回りをするようになり、ラスボスを倒したあとで「うん、倒せるって分かってた。別のビルド試したい」という "ブリンガー廃人" となります(あるいはなりかけてやめる)。 そんな感じでプレイ体験は移っていくのですが、あと一回もう一回と時間が過ぎていくという前作と変わらない楽しさを提供してくれます。
装備の色については少しややこしくて、色が属性であるため、例えば装備を赤色にすると「赤属性」の装備になります。そして各属性の相性は「補色(たぶんRGB)」によります。補色というのは「色相環」において反対側にある色のことで、例えば赤色の補色は水色になります。そのため赤属性の装備は水色属性の攻撃に弱くなります。 攻撃の属性を決めるのは武器の攻撃する部分の色だけみたいで、装備は赤色だとしても、攻撃する部分が水色なら攻撃の属性は水色属性になるみたいです。攻撃する部分は剣なら刃、銃なら弾で、その色を変えると攻撃の属性が変わるようです。 ただ、結局のところ敵の装備の色や攻撃の属性は様々なので、あまり気にしなくてもいいと思います。私は装備の色は灰色っぽい色にして平均的な耐性にしてました。攻撃については一応右手武器と左手武器で色を変えてましたが、それもあまり気にしなくていいと思います。
今作はとても多くのテキストが用意されています。いわゆるロアも多数用意されていて、それらのテキストはアーカイブとして拠点のラボですべて確認できます。その数136個。 ロアには過去の人々のものやAIたちによるものなど様々で、それらを読むことでゲームの世界をより詳細にイメージできるようになります。 音楽は前作同様にピコピコ音をエミュレートしたシンセティックなサウンドで、映像ととても合っています。そしてマップでは非戦闘時と戦闘時で音楽が滑らかに移行するようになっていて、さらに敵の数によっても変わります。これは凄く臨場感があって良かったです。
ストーリーはとても良かったです。 ストーリーの核心はなぜ管理AIのシヴァが人類の冷凍保存を維持し続けているのかですが、それについて人間とAIの関係性だけでなく、主人公スーリアと両親、そしておじいちゃんを絡めた話になっています。これがとても上手に作られていて、例えば子供だった頃のスーリアの世話は、忙しい両親に代わって前世代のAIである「ルドラ」が行っていたことが語られます。これによって、AIに対するプレイヤーの感情を、良いか悪いかという二元論ではない複雑なものにすることができています。 そしてスーリアの内省を描きながらも決して自己賛美や自己嫌悪に寄らず、やがて語られるスーリアの家族の苦悩によって、AIを権威あるいは絶対とすることに疑問を投げかけます。 最終的には「これは人間の問題である」として、人間はAIをどのように利用すべきかという "人間の倫理" として人間とAIの関係性を語ります。この冷静さは本当に素晴らしいと思います。 個人的にすごく好きだったのは、シヴァは人間の指示に忠実に従っていたという描写です。そこにはいわゆるアニミズムが漂っていて、AIに対して "人ではないがモノでもない何か" という愛しさを感じさせる瞬間を提供しています。
メタルブリンガー。 2022年に「サムライブリンガー」でこじ開けたインディーのコミュニティへの入口は2025年になってもしっかりと開かれていて、そこには今作を待っていたユーザーたちがいました。そして新たなユーザーも獲得したかもしれません。 強すぎる組み合わせは調整して弱くしてしまおうなんてことは考えない。強すぎるのならそれを楽しめばいい。その発想は本当に日本のゲームらしいし、シングルプレイのゲームだからこその楽しみ方です。 個人的にはサムライブリンガーの "その出撃時のドロップで楽しんでいく感" が懐かしいですが、ハクスラに "どのビルドも強い" という公正さを持ち込んだような今作のデザインは、大量の敵を蹴散らすゲームプレイと合っているのかなと思います。 特に深く考えずにプレイしたい、でも20時間くらいは楽しみたい。そんなゲーマーのわがままに応えてくれるゲームです。