RKGK / Rakugaki

  • Steam
  • 2024年5月23日

このゲームが楽しいかどうかは置いておくとして、ランナー系のアクションゲームについて考える機会を与えてくれたのは確かだと思う。 ただし、サウントドラックは除く。それについて疑う必要はない。

古くは「けっきょく南極大冒険」や「メトロクロス」など、私たちはランナー系のアクションゲームを楽しんできた。「バルーンファイト」や「F1レース」はメカニクスとして風船での飛行や車での走行を採用しているが、やはりランナー系と言えるだろう。 そして「スーパーマリオブラザーズ」が発売され、ランナー系のゲームはジャンプを主要なメカニクスとして持つようになり、ジャンプアクションとして多くの人たちに親しまれるようになったのだと思う。 一方でジャンプアクションに寄らなかったものもある。それが「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」だ。 スーパーマリオとソニック。ランナー系のリファレンスでもありフラッグシップでもあると言えるその2つのゲームが、私たちプレイヤーを悩ませ、そしてもしかしたら開発者たちをも悩せているのかもしれない。

「スーパーマリオとソニックでいいじゃないか」などと言うゲーマーは風上にも置けないのは当然だが、しかし、それじゃどうすればいいのか。やはり私たちはランナー系のゲームにおいて "マリオとソニックの間" で調整されたゲームを遊び続けるのか。 それに挑戦したであろうゲームたちもある。「海腹川背」はグラップリング・フックという当時としては珍しいはずのメカニクスを採用し、「NiGHTS into dreams...」は3D空間を飛び回るというアクションを横スクロール的な映像によって表現し、「風のクロノア door to phantomile」はジャンプのメカニクスに工夫を凝らしつつも圧巻のナラティブを実現した。 やがて「ジェット セット ラジオ」がサブカルチャー的な映像と音楽によって現実とゲームの境界を壊し、「くりクリミックス」のような2人での協力プレイや「ビューティフル塊魂」のようなあてどない探索がランナーたちの孤独を癒した。 そして一部のゲームたちは、その挑戦の末に様々な名前を得た。「Mirror’s Edge」「Hover(2017)」といった "パルクール"、「Dustforce」「Celeste」といった "Precision Platformer"、「Super Fancy Pants Adventure」のような「定義なんてどうでもいい、楽しいかどうかだ」と主張する "カジュアル"、さらには「Bit.Trip Runner」のような "リズムゲーム" の称号を得たものまで、様々なランナー系のゲームがその名を変え私たちを楽しませている。

色々スッ飛ばして、現在。ジャンプアクションに寄らなかったランナー系のゲームが持つ "移動すること、進むこと" を楽しむためのメカニクスは多くのゲームで採用されている。しかしそのゲームのジャンルがアクションではない場合、ある問題が起こる。 例えば「Webbed」などはグラップリング・フックを採用しているし、「The Pathless」「Forspoken」などはパルクールのような移動方法を採用している。そしてこれはアクションだが、「Rollerdrome」はシューターとしての移動と戦術のシステムをパルクールで構築している。 しかしプレイヤーはアクションアドベンチャーならアクションアドベンチャー、アクションRPGならアクションRPG、シューターならシューターとしてプレイする。そのため、"移動すること、進むこと" を楽しむためのメカニクスはプレイヤーにとってストレスとなる可能性があるし、探索や戦闘を楽しみたいのに移動の腕前を試されるとあっては、途中で嫌になってやめてしまうこともあるだろう。それを避けるためには、移動を楽しんで欲しいにもかかわらず、その難易度がゲームプレイ全体で見たときの難易度に大きな影響を及ぼさないようにしなくてはならない。しかしそれは作る側にとって、そのメカニクスによる移動のシステムを採用する意味がなくなってしまうだろう。だから「移動を楽しんでくれるだろう」とプレイヤーを信じるしかない。

ここでようやくこのゲーム「RKGK / Rakugaki」のことを書ける。 このゲームはアクションだが、いくつかの探索要素を用意している。そしてそこに、"楽しいかどうかは置いておく" と書いた理由がある。 このゲームはアクションなのだから、そのアクションのメカニクスはゲーム全体の難易度に影響する。つまりプレイヤー自身の操作の腕前がすべてであり、その上達を楽しむゲームだ。だから探索の要素を楽しむのは後回しでいいし、無視してもいい。 もしかしたら「いや、このゲームはジェットセットラジオでは?」と思うかもしれない。確かに「Hover(2017)」や「Bomb Rush Cyberfunk」のようなエレクトロニックミュージック寄りのサブカル系に見えるし、実際に映像と音楽についてはその通りだ。しかしゲームプレイは異なる。 ジャンプアクションに寄らなかったランナー系のメカニクスとスタイルを持っているが、しかしそのゲームプレイはジャンプアクションに寄せたランナー系だ。ジャンプを制御して足場に乗ることが必須で、乗れなかったらゲームプレイは強制的に中断させられる。そして難易度は探索寄りではなくステージクリア型として調整されているため、初見から探索に注目するというプレイスタイルには向いていない。

プレイ時間についてはアクションが得意かどうかで変わるが、たぶん8時間ほど、全ステージをプレイすると10~12時間くらいになると思う。 ミスター・バフによってグラフィティが禁止され色を失った街。人々はドレインスクリーンによって監視され洗脳されている。主人公のヴァラーはミスター・バフの支配を崩すために、相棒のAYOとともにドレインスクリーンをグラフィティで塗りつぶしていく。 アクションは2段ジャンプ、壁ジャンプ、スライド、サーフペイント(スプレーしながらの高速移動)、グラップリングフック、グライド、攻撃(3コンボ)というふうに、ランナー系のメカニクスはおおかた持っている。 トリックなどに対するスコアは用意されていない、というかトリック自体がない。グラフィティについても、一部必須のものもあるが、ゲームの進行に大きな影響はない。しかし、それぞれの行動は「ディフェーサーモード」というヴァラーのアクションに影響を与えるモードのために必要になる。そのため無視はしないほうがいい。

アイテム収集などの要素もあるが、やはりアクションに注目したゲームプレイでないと退屈になる。そのため、ゆっくりと辺りを見回して行き先を決めるというのではなく、初見からタイムアタック的なスタイルでプレイしたほうがいいと思う。 各ステージには隠れ家から赴くことができる。そしてストーリーを進めると仲間が隠れ家に戻ってきて賑やかになっていく。 ステージ内で入手できるコインを集めて装備、塗装カラー、グラフィティデザインを購入できるが、購入のための金額は高めに設定されている。しっかり探索してコインを集めなければならないし、特殊なデザインの装備と交換できるゴーストを集めるのは難しい。やはり初見からそれらの購入を目指すのは避けたほうがいいと思う。

隠れ家ではログを確認したり仲間たちと会話したりもできる。ログは各キャラクターやこれまでに描いたグラフィティについて確認できるのに加え、すべてのカットシーンとダイアログを見直すこともできる。さらにキャラクターとグラフィティについては閲覧モードが用意されていて、じっくりと観察できるようになっている。これはぜひその映像を堪能してほしいという開発者の願いにも思える。 そして、これまでにプレイしたステージの曲を好きなだけ聞くことができる。プレイヤーによってはそれこそが望んでいることかもしれない。もちろん無料だ。

主人公のヴァラーが CD Walkman 風のオーディオプレイヤーを腰に下げているのは素晴らしい。そう、ここからはサウンドトラックの話になる。使用する用語が古かったりするが、そこは生暖かい目で見てほしい。 サウンドトラックはもちろん良い。というかジェットセットラジオを、そのゲームプレイは異なるのだとしても、彷彿とさせるゲームでサウンドトラックが弱いなんてことがあり得るはずもない。それらのゲームはYouTubeで No Commentary なゲームプレイを再生してBGM代わりにできるほどのものでなければならない。 しかしそれだけでは、このゲームのサウンドは語れない。 ゲーム内に登場する仲間キャラの説明によれば Techno らしい。しかし、4つ打ちが加わって Electro House っぽくなったり、Dubstep のような Wobble Bass が鳴り始めてEDMっぽくなることもあり、幅広いジャンルのスタイルを取り入れているように思える。また、ゲームの一時停止時にレベルだけでなく Cut-off による変化で調整していたり、ステージの途中で隠れ家に戻った時に Sustain と Release の調整によって余韻を残すなど、細かいこだわりも聞き逃せない。 そして最も重要なのは、単に曲が進行するのではなく実際のゲームプレイに合わせてサウンドが変わるということだ。そのための重要なメカニクスがディフェーサーモードで、このモードは移動速度や見た目の派手さだけでなく、BGMに対して影響を与える。 ステージをいくつかこなしていくとディフェーサーモードが解放され、それ専用のゲージが表示される。ゲージは3段階あって、どの段階であるかによってBGMが変化する。例えば、1段目はバスドラとベースにシンセが乗っているというサウンドで、2段目に達するとハイハットが加わり、3段目に達するとスネアが加わるといった感じになっている。 ゲージはジャンプやスライドなどのアクションによって増えていき、異なるアクションを連続して行うと大きく増加する。コインを獲得したりグラフィティを描くことでも増加する。特にグラフィティは増加量が多い。そしてゲージ量は、何もアクションを行わずに移動しているだけだと減っていき、サーフペイントで高速移動しているときは維持される。 つまり私たちプレイヤーは、おそらくこのゲームにおいて最も重要な要素であろうサウンドを、様々なアクションを行い、グラフィティを描き、サーフペイントを駆使することで、ようやく最大限に楽しむことができる。 プレイヤー自身のスタイルがサウンドを決める。プレイヤー自身がDJだ。 想像してほしい。スプレーを噴射しながら滑るように移動する中で、ハイハットが裏打ちし始めたときのことを、スネアが鳴り始めてサウンドが完成したときのことを。そしてミスによってそのサウンドを失ってしまったときの悲しみを。 果たしてあなたは、あなた自身を興奮させることができるだろうか。 ゲームを起動したときに「ヘッドフォン推奨」的な説明が表示されたが、もちろん私は始めから装着していた。それはイヤホン、しかも大昔に買ったSonyのポータブルMDに付属していたものだったが。

このゲームは少し損をしているかもしれない。それはゲームプレイ自体の話ではなく、プレイヤーの勘違いを誘ってしまうという点についてだ。少なくとも私は勘違いしていた。 このゲームは、"マリオとソニックの間" においてソニックから続くランナー系、特にジェットセットラジオのゲームプレイを提供するかのように見えるが、実際はマリオに寄ったランナー系、つまりジャンプアクションだ。そこに、ソニックに寄せたランナー系の持つメカニクスやスタイルを持ち込んだものになっている。 その点について十分に注意したうえでプレイすれば、"ヘッドフォン推奨のジャンプアクション" として、腕前の上達と達成感だけでなく映像とサウンドトラックによる興奮も体験できると思う。 ただし、ラスボスはつらい。私は1時間かかった。それと説明が面倒になって完全に省略してしまったが、カメラがひどい。