いけにえと雪のセツナ

  • PlayStation 4/PlayStation Vita/Ninntendo Switch/Steam
  • 2016年2月18日/2016年7月20日/2017年3月3日

プレイするかしないかを凄く悩んだゲームです。 雪のセツナが、1990年代RPGのプレイ体験を追及した素晴らしいゲームかもしれないとしても、今の自分が楽しめるのか。退屈だとか面倒だとか思ってしまうんじゃないだろうか。そんな風に考えていました。 もし雪のセツナを楽しめなかった場合、それが雪のセツナの問題なのか自分の好みの変化なのか、判断できないかもしれないって思いました。 でも、考えていても仕方ないよねって感じで、結局はプレイしました。

しばらくはキャラクター強化とかの仕組みを理解できませんでした。なんだか凄く混乱していた感じです。でも仕組みを理解したら「これは楽しいな」って思いました。 キャラ強化やバトルを楽しむことに時間が奪われていくパターンです。ストーリーや雰囲気を楽しむことに意識が向いていたので、それに気づいたときのワクワク感は凄かったです。 このゲームのキャラ強化は技そのものを強化していくというものになっています。例えば、ある技を威力重視で強化することもできるし、MP消費などを減らしてコスト重視にすることもできます。そして同じキャラクターであっても、回復とか防御力とかの技を強化していけば凄く安定したサポートキャラになるし、ひたすら攻撃の威力を上げれば殴りまくりキャラになります。

どう強化するかはプレイヤーが決める。それはプレイする人によってキャラクターの性能が違うということなので、バトルの攻略などがプレイヤー独自のものになります。あるモンスターを倒すのに苦労した人もいれば自分のパーティとの相性バッチリで楽に倒せたって人もいるという感じになり、プレイ体験そのものが違ってくる可能性もあります。 そして、そういった仕組みやバトルを楽しめるかどうかでプレイ体験が変わるという感覚は、かつてのRPGに確かにあったと思います。その部分が尖りすぎていて、人を選ぶゲームもあったと思います。プレイヤーによっては、最高なゲームだったりクソゲーだったりと評価が極端に変わるってヤツですね。 その中で、バトルもストーリーも映像も音楽も素晴らしかったというゲームもありました。それらは「大作」と呼ばれた特別なゲームだったと思います。

ゲームプレイですが、プレイ時間は20~30時間くらいで考えたほうがいいと思います。RPGに慣れていて、さらにストーリーだけを追ってプレイすれば16~18時間くらいでクリアできるかもしれないです。 魔法と連携そして刹那、この3つによるバトルが本当に楽しかったです。もちろん魔法の強化も楽しいのですが用語による説明が凄く分かりにくいです。仕組みを理解するのに時間がかかりました。

魔法の強化はランダムで発生すると説明には書いてあって、実際に強化できるときはポンポン発生するし、できないときは眠くなってしまうくらいできないです。 この強化には大きな特徴があって、それが "刹那を使わないと強化できない" というものです。これがすごく重要です。 刹那というのは、魔法を使うときにタイミングよくボタンを押すと特殊な効果が発生するという仕組みです。その効果は使う魔法によって変わり、魔法を全体化するとか攻撃と同時にHPを回復できるとかがあります。すごく便利なのですが、刹那を使うには時間経過によって溜まるSPが必要なため好きなだけ使うということはできません。 キャラクターの育成もバトルの攻略も、この刹那という仕組みによって変わります。そのため、刹那を楽しめるかどうかでゲームそのものを楽しめるかどうかが決まる、というくらいの大事な要素です。 もし刹那を利用しなかったり楽しめなかったりすると、バトルはすごく退屈なものになります。

刹那を活用することがバトルとキャラ育成を楽しむための仕掛けになっているので、ポチポチとボタンを押して倒すっていう退屈さを感じないでプレイすることができました。 強化のために魔法を使いまくってMP切れが普通って感じで、MP回復のアイテムも使いまくりでした。魔法で魔物を倒して素材を集めて新しい魔法を入手し、そしてまた魔物を倒す。「あとちょっと、もう1回強化発生したら止める」って感じでプレイしてました。

道中のザコと戦って進めるだけではボス戦で苦戦することもありますが、刹那の活用で乗り切れることも多かったです。 例えば、ダメージを一定の量だけ肩代わりしてくれる「ウォール」という魔法があるのですが、これを刹那で使うと全体化できます。それによって防御に余裕ができて、他の2人が連携を使える状況を作れたりします。他にも刹那で使うと攻撃と同時にHPの回復もできるという魔法で自給自足的なこともできたりします。

そして連携です。凄い数の連携があるのですが、どれも強力でエフェクトも綺麗です。 初回プレイの終盤くらいからは、エンドの「叫び」で攻撃力を上げてクオンとジュリオンの連携「流星華」で倒しまくってました。 流星華は5ヒットの攻撃で、1ヒットごとに属性が変わるっていう効果があります。5ヒットなので5属性の全てが発生し、これで倒すと素材をたくさん落としてくれます。さらにジュリオンの攻撃力を上げておいて刹那で使うとボスもサクサク倒せてしまうほどで、ザコもボスもいけるという便利な連携です。

ラスボスの直前まで進めると、各キャラクターの最終的なエピソードを体験できるイベントが各地で発生します。料理のレシピって全部集まったのかなと思い、ひたすら話しかけていたら発生してビックリしました。 イベントの発生する条件は、"各エピソードの対象になるキャラがバトルメンバーに入っている状態で、特定の人物のところに行く" でした。 エンド、クオン、フィデスの3人は全く関係のない人だったり完全に忘れてしまっていた人だったりするので時間がかかりました。

ストーリーは好き嫌いがハッキリ分かれるかもしれません。 悪い人は改心する、優しい魔物は許してあげる、そして最後の最後で判明する真実。 一つ一つを見ると気に入らないとか思うときもありました。でもクリアしたあとで、その一つ一つが全体を作り出している、雪世界の雰囲気や物語に必要なものなんだと思えます。 そこにバトルとキャラ育成の体験が加わりプレイヤーにとっての雪世界が出来上がります。 生きること生きていくこと、生きるなかで起こる様々な出来事。"いけにえ" という死のルールさえも、生きることを考えるための道具として描かれます。そして、セツナとその護衛たちとの意見の違いが、答えのない問いに感じられます。 いけにえであるセツナにとっては、悪事を働く政治家も自分を狙う暗殺者も親を人間に殺された魔物も、守るべき命の一つです。自分がいけにえになることで救われる多くの命のなかの一つです。 いけにえではない護衛たちは命を狙うものは殺す、魔物は殺す、信じられないものは見捨てる。それが役目です。そうしないといけにえを守れない。 人々を守るために最果ての地を目指しながら命を奪っていく。この問いに対してセツナは徹底した行動で自分の答えを示していきます。 そして、その答えは最後の最後でも変わらない。本当に最後まで。 私は思いました。セツナが守りたいと思う多くの命の中に、セツナ自身の命は含まれないのか。 私にとってはセツナだって、救いたいと思っている命の一つです。いけにえとしての役目を果たさずに済めばと思っています。でもプレイヤーである自分にはセツナの答えを変えさせることは出来ません。 セツナの答えは決まっているんです。最後まで変わらないんです。 最後は泣いてしまいました。正直なところ感情移入とかしてる自覚もなかったので、自分でもビックリです。 ラストで「振れないよ」ってつぶやき、そして振りました。製作者を恨みながら。 セツナの答えが変わらないのなら、せめて振るかどうかはプレイヤーではなくて製作者に決めて欲しかった。 その答えを変えられると信じて、自分はバトルを繰り返していたのだから。

プレイ前は不安を感じていましたが、気づいてみれば雪のセツナを楽しんでいました。 RPGが好きな人にとって雪のセツナは、乱暴な表現ですが、当たり前なゲームだと思います。キャラクターを強化して自分の好きな戦い方をしてボスを倒す。強いモンスターと出会っちゃって全滅してセーブポイントからやり直し。そして各キャラクターの育成とバトルでの役割はプレイヤーによって違い、それによってクリア後の感覚も違うものになる。 それらはRPGが好きな人にとっては普通に楽しんできたものです。けれども、ゲームがしたいからRPGやってみたけど楽しみ方が分からないという人、そういったプレイヤーにRPGの楽しさ、特にバトルとキャラ育成を楽しめるかどうかでプレイ体験が大きく変わるということに気づいてもらうための、丁度いいボリュームのゲームじゃないかなと思います。

結局は楽しんでプレイした雪のセツナですが、Tokyo RPG Factoryが新作を発表しました。「LOST SPHEAR」というタイトルで2017年10月12日にPS4とNintendo Switchで発売予定。 『LOST SPHEAR/ロストスフィア』デビュートレーラー 凄く楽しみです。