Dungeons of Hinterberg

  • Steam/Xbox XS
  • 2024年7月18日

素晴らしいゲームだと思います。ゲーム内時間の一日を単位にゲームプレイが制限されているので、そこに不満を感じるかもしれませんが、それでも素晴らしいゲームだと思います。 ダンジョン、コンバット、キャラクターの育成、村の人々とのふれあい、探索、ストーリー。これだけ多くの要素を用意する場合、プレイスタイルによって難易度や体験が大きく異なってしまう可能性があります。しかしこのゲームは、確かなメカニクスとシステムを用意し、そしてゲームプレイの制限によって難易度を調整することで、それがどのような体験であったとしても、「このゲームに出会えてよかった」と思わせてくれるナラティブを実現しています。 そして実はこのゲーム、コンバットとキャラクター育成の "ある特徴" に気づくかどうかで評価が変わります。というか若干なんですがハクスラっぽい感じになっています。

主人公のルイーザは、法律事務所で新米弁護士として働く日々や仕事のストレスを解消するための週末に疑問を抱いている。そして「人生のすべてが冒険心に欠けてる」と子供のころを懐かしみ、ヒンターベルクで休暇を過ごすことにした。 ヒンターベルクには魔法のダンジョンが存在し、観光客やダンジョンに挑む冒険者たちで賑わっている。ルイーザはダンジョン探索のガイドと一緒に初心者のダンジョンに挑むが、ダンジョンのボスを倒したときに大きな地震が起こった。ガイドの助けによってルイーザはゲストハウスに運ばれ、そして翌朝、その地震についての村長による声明を聞く。それは、ヒンターベルクでは今回のような異常は良くあることで、けが人などはいないというものだった。

ゲームの進行は一日単位になっていて、朝、正午、午後、夜、夜中に分かれています。 朝は向かう地域を決め、正午は各地域を探索し、午後はダンジョンに挑戦し、夜は村で活動を行い、夜中に寝ます。買い物などは夜にしかできないので、寝る前に次の日の準備を済ませておく必要があります。 各時間帯の行動は厳しく制限されていて、正午に探索できるのは朝に選んだ地域だけです。そしてダンジョンに挑戦したあとは強制的に村に戻ることになります。夜は村の人々と過ごせますが、誰か一人と過ごしたらやはり強制的に宿に戻ることになります。 一日の終わりには、モンスターの討伐数や入手したアイテムなどの結果を細かく示してくれます。

ダンジョンは4か所の地域に点在していて、全部で26か所あります。各地域へはヒンターベルクから行き先を指定して移動し、それらの地域を探索してダンジョンを見つけます。各ダンジョンにはレベルが設定されていて、レベルが高いほどモンスターも強くなります。 4つの地域についてはストーリーの進行に応じてアンロックされますが、序盤で3つ行けるようになり、4つ目は中盤くらいに行けるようになります。 探索については、高レベルのダンジョンへはストーリーが進まないとたどり着けないといった制限はありますが、いわゆる一本道ではないです。各地域がアンロックされてからは本当にプレイヤーの自由で、どの地域のどのダンジョンに挑んでもいいです。また、絶景スポットという場所が用意されていて、そこでくつろぐこともできます。 各地域では魔法を2つずつ習得できますが、その地域で習得した魔法はその地域でしか使えないというメカニクスになっていて、各地域の探索とダンジョンはその地域で使える魔法を使用するものになっています。

アクションは、攻撃については剣、魔法、そしてコンジットという特殊技の3つで、防御については回避のみで盾による防御はありません。 剣による攻撃は弱攻撃と強攻撃があり、弱と強のどちらも4コンボです。強攻撃の場合はモンスターをノックダウンもしくはスタンさせることができます。 魔法については使用可能な回数を示すスロットが設定されていて、戦闘中は魔法を使用するごとにスロットを消費し、剣で攻撃するとスロットが回復します。探索時はスロットを消費しないので何度でも使用できます。 コンジットには専用のゲージが設定されていて、ゲージが満タンになると使用できます。ゲージは戦闘中に時間経過によって増えていきますが、剣で攻撃すれば大きく増えます。探索中には使用できず、ゲージも増えません。 回避にもスロットが設定されていますが、これについては短時間で回復します。

キャラクターの育成については経験値によるレベルアップがなくて、そしてとても複雑なシステムになっています。そのシステムの中心となるのが "ルイーザのアクティビティ" で、これが育成の各メカニクスをつなぎ合わせる重要な役目を果たしています。 ルイーザのステータスには「HP」「魔法スロット」「回避スロット」「コンジット用ゲージ」「攻撃力」「防御力」があり、攻撃力と防御力は物理と魔法で別になります。それらに加えて防具の「アップグレード」による強化と、剣の「魔法強化」と「チャーム」と呼ばれるアイテムによるパッシブスキルがあります。そしてさらに「社交ステータス」というものがあり、そのステータスは「馴染み」「名声」「娯楽」「くつろぎ」の4つあります。それらの要素はすべて、ルイーザのアクティビティの影響を受けます。 例えば、ダンジョンをクリアするとHPと名声が増えるし、ダンジョンには挑戦せずに絶景ポイントでゆっくりしたのであれば、その絶景ポイントに応じて攻撃力や防御力が向上します。 そしてルイーザは村の人々(NPC)と「つるむ」ことで仲良くなれるのですが、各NPCには仲良くなったときの特典が用意されています。それらはステータスの向上だけでなく、防具のアップグレードといった強化要素のアンロックが特典だったりもします。 それらすべてのメカニクスが、ルイーザのアクティビティによってまとめ上げられ、一つの大きな育成のシステムを構築しています。

ゲームプレイですが、プレイ時間はかなり長くなると思います。仮に一つのダンジョンを30分ほどでクリアしていったとしても、各地域の探索や村でのアクティビティを含めると、ゲーム内時間の一日を終えるのに1時間ほどかかります。そしてダンジョンは26個なので最短で26日となり、プレイ時間は26時間です。しかし、アクションとキャラクター育成そして探索を楽しむことになると思うので、1度のプレイで終わらせたい場合は30~40時間と考えたほうがいいです。また、まず最短でクリアしてからプレイし直して楽しむというスタイルもありますが、その場合でも初見プレイは20時間くらいかかると思うので、結局は30時間以上で考えたほうがいいです。 プレイ中は経過日数がカウントされますが、これはゲームプレイにおいて特に意味はないようです。一応50日以上は確認していますが、何の影響も問題もなくプレイできています。 それと、ストーリーをクリアするとそこで終わりなので、ゲームクリア直前の状態から再開して楽しみたい場合は、最後のダンジョンのクリア前に手動でセーブしておいたほうがいいです。

メカニクスは本当にしっかりと作られていて、特にコンバットのアクションについては簡単すぎずかつストレスをかけすぎないよう丁寧に調整されています。 剣による弱攻撃は回避によってモーションをキャンセルできますが、強攻撃はキャンセルできないようになっていて、これがいい具合にコンボの気持ちよさとリスクを発生させています。そして敵の攻撃の当たり判定は見た目通りになっていて違和感がありません。さらにカメラ外からの攻撃に対しては!マークを表示させてプレイヤーに知らせることで、3D空間におけるコンバットにありがちなストレスも軽減されています。そして、ある程度の距離であれば、攻撃時に自動で距離を詰めてくれるようになっていて、ゴリゴリのボタン連打でも乗り切れます。 回避を駆使してコンボを叩き込んだり魔法やコンジットを中心にヒット・アンド・ウェイで翻弄したりと、たとえアクションが得意ではないとしても、それらのメカニクスが上手く戦っているように見せてくれます。 探索時の自動ジャンプや壁のよじ登りなども滑らかで、移動がとてもスムーズです。端のほうに進んだときにジャンプするつもりはなくてもジャンプしてしまって落ちるという自動ジャンプあるあるも起こりますが、それについては大目に見ましょう。 そして、各地域によって使用できる魔法が異なるというのはとても良いアイデアだなと思います。どんどん増えていく魔法の使い道を考える必要がなくなることでダンジョンのレベルデザインが少しは楽になるだろうし、それでいて様々な魔法を楽しませることができると思います。

キャラクターの育成においてはルイーザのアクティビティが重要ですが、育成のプレッシャーのようなものを抱える必要はないです。 ルイーザの能力向上はアクティビティによって変わりますが、どのアクティビティをいつ行うかは自由です。そしてこのゲームは、ルイーザがどのようなアクティビティを選択したとしても必ず能力は向上するようになっています。 プレイヤーの価値観などに沿って好きに行動すれば、ルイーザはプレイヤーの分身のような能力になるだろうし、目指す能力を先に決めておいて行動すれば、先を見据えたゲームらしい能力になります。そして、時間はかかりますが、ダンジョンを後回しにして他のアクティビティをすべてこなしていけば、結局は最強キャラに育ちます。 また、社交ステータスは普通にプレイする分にはあまり意味はなくて、やり込み用のステータスと考えていいと思います。 ちなみに私のクリア時の社交ステータスは馴染み1190、名声370、娯楽110、くつろぎ790という感じでした。

これは若干やり込み情報になりますが、キャラクターの育成において強さを実現したい場合はチャームによるパッシブスキルと社交ステータスが重要です。 チャームには倍率によるダメージの上昇を提供するものがあって、例えば「ACダメージアップ」などがそうです。そしてそれらを複数セットした場合、倍率が乗ったあとの数値に次の倍率が乗るみたいです。そのため、ゲーム終盤くらいのダメージに倍率系を5個くらいずつセットすると割とやばいことになって、最高レベルのダンジョンのモンスターたち相手でもコンジットを使用して10秒くらいで終わります。それに加えて、社交ステータスの何パーセントかを攻撃力に上乗せするチャームなどもセットすると結構やばいことになります。 ただ、素材集めに時間がかかるのと基本的にそういったゲームデザインではないということから、やり込み用の超高難度な闘技場といった要素が追加されない限りは、本格的なハクスラな体験にはならないです。

映像はセル・シェーディングによるビビッドかつコントラストの高いものになっています。その映像はやりすぎのようにも思えますが、けれども、ルイーザが思い描く子供のころの冒険の記憶や、私たちが思い描く現実における過去の風景は案外そういうものなのかもしれません。そう考えると、その色鮮やかな映像は表現として正解なのかもしれません。 そして音楽。各地域のアンビエントなサウンドは環境音を決して邪魔せず、それでいてしっかりとその地域を思い出せてくれます。 コンバットの曲は各地域の曲に合わせたアレンジとサウンドになっていて、さらにダンジョン内ではやはりダンジョンの曲に合わせたものになっています。そしてどの時点でコンバットが終了したとしても、違和感なく曲も終了します。 フィールドやダンジョンでの探索時はベースやドラムあるいは歪んだ音などは奥に引っ込め、逆にコンバットのときはそれらを前に出して迫力を持たせています。そのメリハリは、プレイヤーに対して安心と緊張そして冷静と興奮を行き来させることに貢献しています。 村のバーでは待ってましたと言わんばかりのEDMなサウンドになりますが、それはゲーム自体のBGMとして流れるのではなく、あくまでも "室内に鳴り響いている音" を表現していて、決してゲーム全体の雰囲気を壊すようなものにはなっていません。 そして、ダンジョンの曲は別として、全体的に郷愁というか青春というか、何かそういった懐かしさやせつなさを感じさせるものになっていて、それがルイーザの内省を描くストーリーと一致します。 個人的にはコルムシュタインという雪の地域の曲が好きで、スノーボードで滑走するとサウンドが移行するという作りになっています。その曲はサウンドトラックで聞いた場合は決して同じような感覚を得られない、私にとってプレイ体験と強く結びついている曲です。

Dungeons of Hinterberg。 このゲームのメカニクスは本当にしっかりと作られていますが、別にそこに注目する必要もないです。最も重要なのはルイーザのアクティビティによって提供される "プレイヤーそれぞれの体験" です。 攻略のことなど考えずに好きなようにプレイしていると、もしかしたら能力的に厳しい状況になることもあるかもしれません。でも、探索の成果によってお金をたくさん持っているかもしれません。だったら回復アイテムを買い込んでダンジョンに挑めばいいです。村の人々との関係を深めたいのなら、ダンジョンに挑まずに絶景ポイントで時間を過ごして村に戻ればいいです。そして経過日数など気にする必要もないのだから、一人で映画を観たり、スパでリラックスして過ごせばいいです。 確かなメカニクスとそれらに支えられたシステムによって築かれた "ゲームであること" という強力な基盤は、たとえそれに気づかなくても、そして気づいたとしても、そんなことに関係なく "私のナラティブ" を提供してくれます。