The Wreck

  • Steam/GOG
  • 2023年3月15日

日本語未対応です。 ライターの執筆する物語を体験するという形になっているアドベンチャーです。 主人公の Junon が自身の心の健康を取り戻すという内容で、交通事故の映像が繰り返されます。そのため、交通事故によるトラウマなどを抱えている人は注意が必要です。

ゲームを起動すると "WRITE WITHOUT FEAR." と示されていて、やはり何かつらい出来事が描かれているんだろうなと感じます。 母の Marie が倒れたという連絡を受けて病院に駆けつけた Junon は、延命を続けるかどうかについての判断を Junon が担っていると聞かされます。Junon はそういった話をしたことも同意したこともないため、Marie が勝手に決めたに違いないと戸惑います。 そうした状況で Junon は Marie との関係について深く見つめ直し、さらには自身の抱えている苦悩からの解放も試みることになります。 Junon と他の人物との会話は必ずケンカ別れなどの良くない終わりかたになり、そして病院からの帰りに必ず交通事故を起こします。それを回避するために過去の出来事を思い出し、そのなかで、問題を解決するための適切な言動を見つけていく、というゲームです。

ゲームプレイですが、プレイ時間は英語ペラペラなら4時間ほど、じっくりプレイしても6時間ほどじゃないかなと思います。私の場合は単語を調べるなどしてプレイしながら16時間でした。 Junon の子供である Astrid は交通事故により亡くなり、その車を運転していたのは Junon でした。しかし Junon は当時のことをはっきりとは思い出せずにいました。やがて Junon の生活は荒んでいき、離婚をし、現在に至ります。 それらは初めから示されるのではなく、ゲームを進めることで明らかになっていきます。

そうして Junon の過去を知りながら問題を一つ一つ解決していくのですが、私にとって気になることが二つありました。 一つは交通事故という "My fault (私の過ち)" です。その事故が誰を責めるものでもないのだと理解したとしても、やはり Junon の中に残り続けるはずです。それがまた Junon を苦しめないかと心配でした。 もう一つは Marie との関係です。私たちプレイヤーは Junon の母である Marie という人物について知ることができません。そこに何かしらモヤモヤとした感覚を抱きながらプレイすることになります。 Junon の抱える My fault、そしてMarie に対する謎とプレイヤーが抱く興味。この二つ、実はゲームによって巧妙に仕向けられたものであり、プレイヤーの感情を揺さぶるために用意された、圧巻のクライマックスへと導くための布石だったんです。

過去の自分と向き合い、そして自己救済を試みたあと、Junon は Marie のいる病室に入ります。そこで Junon はベッドのそばに十字架が掛けられていることに気づき、前日の出来事を思い出します。Marie が倒れる前日、Junon は一緒にお酒を飲んでいて、そこで Marie は自分の生い立ちを話したのです。 私たちは小さな村に住んでいた。陰気で、退屈で、ゾッとするような場所。人々は馬鹿で下劣で、いつも誰かにレッテルを張りつけていた。そしてもちろん、そのペテン師たちはいつも教会に集っていた。 私には3つの安らぎの源があった。神、本そして絵を描くこと。だから教会の中で、絵を描くことにアホみたいな時間を費やした。 それ以外で私は平穏な時を得たことはなかった。四人の子供、二部屋のアパート。年長の私は彼らの面倒を見ていた。7歳下の弟は自分の子供のようだった。 あるとき、伯母が私に母と父について話した。父が十九歳、母が十五歳のとき、父は母を犯した。母が妊娠したことを知ると、彼らは急いで結婚した。 母はいつも働いていた。私は彼女を勇敢で強い人間だと思っていた。もちろん、彼女なりの気性の激しさを持っていたし、酒も飲んだ。けれども、私は彼女を信頼できると思っていた。 ある夜、私は女友達と……そして男友達と外出をした。ただ映画を見に行っただけだったが、母は私に言って聞かせた。あなたは家族に恥をかかせている、教会で皆がそう話している、もし男性を誘うのであれば良くないことが起こる、と。 私は答えた。 「もしすでにそれが起こっていたとしても、私は自分を犯した者と結婚はしない」 彼女は私を引っぱたいた。 翌日、それは魔法が解かれてしまったかのようだった。教会は不愉快な臭いを放ち、彫刻は醜く、男社会の神は私を陰鬱にさせた。 「あなたは私を愛していない」と私は彼にささやいた。 「クソったれ」 教会で腹を立てたそのあと、私は初潮を迎えた。すでに十四歳と遅かったが、私の体は発達を始めた。 私の体がさらに変化すると私はますます父が怖くなった。それは彼が粗暴だからではない。彼はいつも私を女として見ていた。 最後に母が私に手を上げたとき、私たちは私の外出について言い争っていた。彼女は私を売春婦と呼び、そして私は言い返した。 「少なくとも、私は自分に注ぎ込んだ男についていくことはしない」 彼女は私を引っぱたき言い放った。 「もしそれが私次第だったなら、あなたを捨ててたでしょうね」 そして……、これで終わり。引き返すことはできない。 この十字架は家を出るときに母から盗み取った。どうしてそんなことをしたのかは分からない。だけど、この十字架は私に彼女のことについて考える機会を与えてくれる。 「私は絶対に、彼女のようにはならない」と。

Marie については "Marie 以外の人たち" によって語られてきました。私たちプレイヤーは Marie 自身の言葉によって Marie を知ることはなかったんです。つまり、私たちの見ていた Marie は、あくまでも他の人が思っている Marie ということになります。 そして Marie のことを知ったそのあと、交通事故のときに何があったのかを知ることになります。 事故が起こったとき Astrid はシートベルトをしていませんでした。なぜか。 それは Marie が外したからでした。 Astrid がシートベルトをしていないことに気づいた Junon は Marie を責め、そして道路を横断していた鹿を避けようとして車の制御を失い、ブロックに衝突し横転しました。 それを思い出した Junon は語りかけます。 "Your fault"。

Marie は倒れる前日に、Astrid について話していました。 この世は不公平だ。 あなたは私の娘になるかどうかを選べなかった。私は私の母の娘になるかどうかを選べなかった。しかしそれは避けられないこと。 Astrid はその不公平のサイクルを断ち切ってくれる存在だと思っていた。しかし、その呪いは彼女をも狙っていた。そして再び襲った。とても強く。 "My fault"。 Marie もまた苦悩を抱えていた。そのことを知ったとき、それまで私にとって単なるゲームの中のキャラクターであった Marie は、驚くほどに生々しい一人の人間になりました。 Marie は Astrid を襲った出来事を "My shitty curse (私の呪い)" と言いました。 おそらくは憎むべき相手だったはずの母の十字架を持ち続け、彼女のようにはならないと誓い、そして自分以外を信じるなと強く生きた。そんな Marie が Astrid の死についてどのように考えていたのかは分かりません。My shitty curse という言葉を手がかりに想像することはできますが、それをしたところで、本人に確認することはできません。

Marie が Astrid のシートベルトを外したということを Junon は思い出した。そして Junon はどうするのかと思っていたのですが、その選択をプレイヤーに投げかけてきました。用意された選択は「HOPE」「AGREE」「REFUSE」の三つです。 HOPE は希望を持って延命治療を続けることであり、二人の和解という形で Marie の苦悩を解決します。 AGREE は Marie 自身が望んでいる通りにすることであり、死というものによって Marie をその苦悩から解放します。 REFUSE は Marie の意思に反して延命治療を続けることであり、これは Marie への復讐の完了であるかのように思えます。 その時点で私は極端に Marie 寄りの感情を持っていたため REFUSE という選択はなかったです。そして HOPE か AGREE かで非常に悩みましたが、HOPE を選びました。 HOPEを選ぶと、最後に Marie の指がかすかに動くという流れになります。それはまさに希望といった終わりかたでした。

ゲームプレイのほとんどは Junon の救済に注目したものになります。しかし、私の感情が極端に Marie に寄っていたからかもしれないのですが、実は Marie という人物の救済を描いていると思えるような内容でした。 終盤の Marie のパートは、その陰鬱な表現も含めて本当に凄くて一気に引き込まれました。ただ、Junon の苦しみを考えれば Marie に理解を示すのはどうかと思えてきます。結局のところ、私はこのゲームの物語を他人事としてしか見ていないのかなとも思いました。

ここまで書きました。そして読んでくれた方、本当にありがとうございます。 しかしここまで書いてきたこと、つまり私の感想なんて実はどうでもいいことなんです。何を言っているか分からないかもしれないですが、そうなんです。 このゲームは、とあるライターの執筆する物語についてのゲームです。そして、そのライターは元気だし子供も元気です。遊園地に行く約束だと騒いだり、書いたものをあとで読み聞かせてくれるのかとはしゃいでいます。それをエンディングで知ることになります。 私はプレイ中ずっと、そのライターの体験をもとにした話だと思い込んでいたんです。でもそうじゃなくて、まったくのフィクションだった。まさかの結末。 ずっと真面目に考えていたし、Marie について理解したあとのパートでは涙も流れました。それって何だったんだろうという感じです。でも怒りとか残念だとかっていう気持ちはなくて、子供の元気な声を聞いたときはやっぱり嬉しかったです。

プレイ中は、感想を書くのは書くけど公開することはないかなと思っていました。でもクリア後にその考えを変えました。なぜかというと結末を知ったときの感覚を共有したかったからです。 もしこの感想を読んで何かを感じた方は、それがまさに、私のこのゲームのプレイ体験だと理解していだたけたらなと思います。 もちろん書いてあることはすべて本当です。誇張もしていないし嘘も書いてないです。そして何よりも真面目に真剣に書いています。ゲームの内容、特に交通事故や子供を失ったということ自体に対して、どうでもいいなどとは決して思っていません。その点についてもご理解いただけたらと思います。