Rain World
- Steam/GOG/Nintendo Switch/PlayStation 4
- 2017年3月29日/2019年7月18日/2018年2月7日
そのとき私の頬を涙が伝い、そして私は言語化を拒否した。 このゲームは多分そんなゲームではないだろう。その世界の生態系システムはまるでメカニクスのお化けであり、ぼんやりとしているけれど確かに存在するそのお化けを見つけ出し、分解し、そして理解してからが本番となる。このゲームはシステムを楽しむゲームだ。 しかしプレイを開始してしばらくすると、「この世界を探索し尽せ」と私の悪い癖が命じ、私はそれに従った。捕食者がうろつく恐ろしい世界でなぜそれを選んだのかは分からない。もしかしたら、ぼんやりと見えているお化けに魅了されていたのかもしれない。 何にせよ、探索への興味を優先することでメカニクスに対する理解が不足し、ゲームプレイは厳しいものになった。その厳しさは、そのときの私の感情に影響していたと思う。
ゲーム開始時はどこに行けばいいのかも分からなかったが、不思議な黄色い生物が現れて何かを示していることに気づいた。おそらくその示す方向に進めばいいのだろうと生物を追っていった。そしていくつかの地域を過ぎると、今度は同じような青い生物が現れた。それは黄色いのとは別の方向を示している。どちらを追うか悩んだが、時折見る不思議な夢に関連しているのではと思い、青いほうを追った。 やがて海岸線という地域に入り、溺れるように泳ぎながら海を進んでいくと、少し雰囲気の異なる場所に辿り着いた。壁に囲まれ薄暗く、これは捕食者たちがたむろしているに違いないとビクビクしていたが、意外にも平和な場所だった。 そこの奥で別の場所への出入り口を見つけたが、行くための道がない。その出入り口は高い場所にあり一本の梁が通っている。とにかくその梁に乗るしかない。細い通路をくぐり抜け、滝のように水が流れ落ちている小さな足場を渡り、壁の中の細い通路に潜り込み上へと進んでいく。マップを見てここで間違いないと判断して降りると、ようやく出入り口へ辿り着いた。 その先の小さな部屋を抜けた場所、そこに彼女はいた。
天井から差し込む光が、彼女を照らしている。このゲームをプレイしてから初めて見る日の光。 その映像を見たとき、私は言語化を拒否した。美しい? 悲しい? しかし世界はこんなにも厳しいのだから、それらを言葉にしたところでどうなるというのだろう。確かに何かを感じ、何かを思った。そして先に進む勇気を得た。それが何故かも分からなかったが、とにかくそれでいい。 彼女は壁につながれていた。救えないかとウロウロしてみたが無理だった。私は彼女のそばでフワフワしている何かを捕まえ、食えるか試してみた。すると食えた。これはありがたいと捕まえて食べていると、彼女は地面に横たわり動かなくなった。どうしたんだろうと思い押してみたが反応はない。彼女は何者なのか、そしてなぜ動かなくなったのかが気になったが、気にしたところで分かるはずもない。長居は無用。もうすぐ雨が降る。 その場を離れたあと、暗い場所で体が光るようになっていることに気づいた。何が起こったのか分からないが、彼女のそばにいた何かを食べたことが原因かもしれないと思っていた。 やがてシェルターで冬眠したとき、これまでとは違う夢を見た。
冬眠から覚めて次の地域まで辿り着くと、そこは真っ暗だった。しかし体が光って辺りを照らしてくれている。私は彼女との出会いを思い出し、あの場所に行ってよかったと思った。 光っているからと言って強くなったわけではないので、やはり何度も捕食者に喰われながら進んでいくと、やがてコンブのお化けみたいなものに阻まれた。そのコンブを抜けられなかった私は、ついに公式wikiを見た。そこには静かに移動すればコンブは反応しないということが書いてあった。「ああ、そんな簡単なことだったのか」と落ち込み、メカニクスに無頓着なまま進めてきたことにようやく気づいた。 私は自力でのクリアをあきらめ、これまで通ってきた地域について書かれているページを読み漁り、あの場所と彼女についての記述に辿り着いた。
公式wikiには彼女が何者なのか詳細に書かれていた。そして、彼女のそばを漂っていた何か、私が食べた何かについても書かれていた。 彼女はある問題を解決するために作られたAIで、他の同じようなAIが行っている実験によって現在の状況に陥った。そして私が食べたその何かは、彼女の記憶あるいは情報を保持している物であり、それを失うことは死ぬことと同じだった。 私は彼女が横たわる姿を思い出した。私は彼女を殺したのだ。 そのことに気づきもせず、体が光っているから暗闇でも大丈夫と喜んでいたが、それは彼女の命だった。 彼女に会う直前まで時間を巻き戻さなければならない。プレイ時間のことなどどうでもいい。殺したことを無かったことにはできないが、それでもやり直さなければならない。 このゲームを開始したとき、私はセーブファイルの保存されている場所を確認していた。だからこのゲームが自動でセーブのバックアップを作成していることを知っていた。大量にあるバックアップを一つずつ確認し、ようやく見つけたセーブファイルで再開すると、彼女はそこにいた。差し込む光に照らされ、そこに立っていた。そして私の頬を涙が伝い、再び私は言語化を拒否した。
公式wikiには、他のAIと出会うことで彼女の言っていることを理解できるようになると書かれていた。そして所々に落ちている真珠を彼女のもとに持っていくと、その真珠に保存されている記憶を読み聞かせてくれるとも書かれていた。それらはゲームクリアに必須ではないことも書かれていたが、私はそのAIに会うと決めた。そして、どれだけの時間が必要なのか分からないが、必ずここに戻ってくると誓った。 彼女のもとを離れ一度通った道を進んだ先は当然ながら暗闇だった。もう体は光らないが、なぜだろう、そこには不安も怖さもなかった。あるのはただ一つ、違う地域に辿り着くたびに、また彼女に会うときが近づくという喜びだけだった。 Looks to the Moon。それが彼女の名前だった。
ゲームプレイについては、まずプレイ時間の予想はできない。本当に初めから攻略情報を参考にしてクリアだけを目指すのであれば12時間ほどかもしれないが、そうでない場合は20~60時間くらいで幅があると思う。 このゲームの生態系は本当に凄くて、生物や植物の一つ一つに個別のメカニクスが用意されている。攻撃的かそうでないかはもちろん、視覚か聴覚かといった違いまである。そして生物同士で争うこともあり、ヒエラルキーすら存在している。そうしたメカニクスからなるシステムは多様な生態系を実現し、プレイヤーが操作する "ナメクジネコ" がそこにいようがいまいが彼らはその世界に生きていて、ナメクジネコはあくまでもその一部だと強烈に実感させられる。さらに、私はまだ挑戦していないが、多くの生物がテイム可能らしい。 それと、でかいムカデみたいなのもいて、これが凄くゾッとさせられる。そのため、たとえゲームであっても耐えられないくらいに虫が苦手な人はプレイしないほうがいいと思う。
食料を確保し定期的に降る強烈な雨をシェルターで回避するという単純なものだが、とても難しい。 また、このゲームは理不尽な難易度になるときがある。例えばマップが切り替わった瞬間に、そこにいた生物に襲われるときがある。そういった避けられない死がたびたび起こることもあるので、とにかく何度もやり直すことになる。 私はプレイしているうちにそうした理不尽に慣れてしまったのだが、それゆえの間違いを最後の最後に犯してしまった。それはクリア直前の場面で、ひたすら下へ下へと向うと少しずつゲームが進行するという状況でのことだった。私はなかなか終わらないなと思いながら、たぶん20分くらいずっと下に進んでいた。さすがにこれはおかしいと思い調べてみると、それに対する回答は「上に行け」だった。どうやら多くの人が私と同じように20分とか30分とかの時間をかけて下に進み続けていたようだ。 いや気づけよと思うかもしれないが、そんなこともあり得ると思ってしまったくらい、その世界の生態系は厳しく理不尽で、そして多くの人がやはり私と同じように、その世界に浸りきっていたのだろう。
Rain World。 このメカニクスのお化けのようなゲームは、やはりそこに注目してこそ楽しめるゲームのはずだ。私はこのゲームに出会えてよかったと思っているが、探索に注目してプレイした私がこのゲームを楽しめたのは、もしかしたら偶然なのかもしれない。それでも、とにかく私は楽しんだ。 トカゲに喰われ、鳥に襲われ、雨に溺れ、ようやく Looks to the Moon のもとに戻った私が、これだけは絶対に無くすまいと胃袋にしまっておいた赤い真珠を吐き出すと、彼女はその記憶を読んで聞かせてくれた。それは短くて意味の分からないものだったが、それでもいい。彼女は楽しそうだし、私も楽しいのだから。 そうしてまた公式wikiを読み直していると、こんなことが書いてあった。 「ハンターは Looks to the Moon を救える」 ハンターは一度ゲームをクリアすると選べるようになるナメクジネコだ。私はゲームをクリアしたから選べる。だから私は彼女を救わなければならない。しかし恐ろしく難しいらしいので、まずはトカゲを倒す練習から始める必要がありそうだ。