TOEM

  • Steam/GOG/Nintendo Switch
  • 2021年9月17日

魔法の現象「トーエム」を見るために探検するというアドベンチャーです。 写真を撮ってチャレンジを達成し、その報酬であるスタンプを集め次の場所に移動する。それをただ、本当に淡々と、繰り返すだけのゲーム。だけど、行く先々で写真を撮り、住人たちを助け、時には声を上げて笑ってしまうようなユーモアに触れるうちに、その淡々としたゲームプレイは着実にプレイヤーのナラティブとして積み重なっていきます。

あれを撮りたいこれも撮りたい全部残しておきたいと、探検を進めるうちに増えていく写真たち。そしてアルバムを眺めていると、胸に湧き起こる郷愁。 なぜだろう。単なるゲームのスタート地点である町を、なぜ私はこんなにも恋しく思うのだろう。 すごろくのようなマップをバスで移動して、小さな箱庭の中を探索するだけ。そういったものに現実的な距離の感覚なんてないはず。まるで昨日のことのようだなんて言い回しもあるけれど、これは本当に昨日のことだから、懐かしさなどという感覚もないはず。でも私は町が恋しいし、おばあちゃんの写真を何度も眺めた。 やがて私の中で、故郷に帰りたいという思いと探検を進めたいという思いがせめぎ合い、そして私は探検を進めるという選択を取った。そこには「帰るべき時は今ではない」という、現実に私が得ることもある感覚が確かにありました。

私がビデオゲームで感じることがある懐かしさや郷愁にも似た感覚が何なのかは未だに分からないし、言葉で表現することに成功したこともありません。もしかしたら、似ているのではなく同じものなのでしょうか。何にしても、このTOEMとの出会いにより、私にとってビデオゲームは体験であるということを改めて自覚できました。 私はその世界を探検し、トーエムを見た。そして山を降りるとき、達成感と安堵に包まれた。私の探検は終わってしまったけれど、これでやっと故郷に帰れるのだと。 このゲームは写真という仕組みによって、現実においておそらく影響しているかもしれない、距離や時間という感覚を無視して探検を体験させることに成功していると思います。

ゲームプレイですが、プレイ時間は6~8時間ほどだと思います。スタンプ集めなどのコンプリート要素にこだわらなければ4時間もかからないかもしれないですが、ある程度は頑張ったほうがいいと思います。2時間ほどの差であっても、それは必ずプレイヤーにとっての良い体験となるはずです。 困っている人を助けるとカードにスタンプを押すことができ、決められた数のスタンプを集めるとバスが無料になり次の場所に行けます。それを繰り返して探検を進めていきます。 ゲーム映像が見下ろし型の視点なので、建物の裏側などカメラを覗かないと見ることのできないものもあります。そのため画面をグルグル回してそこら中でカメラを覗くことになると思います。 人助けをするとカメラの三脚や帽子などの衣装をもらえることもあって夢中になってしまうかもしれないのですが、あまりこだわりすぎると面倒さが表立ってしまいます。中盤以降だと他の人助けと関連しているものも増えてくるので、あまり深く考えずに出来ることをこなしていくほうがいいです。 一度行った場所はいつでも戻って探検することができます。だけど、あくまでも個人的な意見ですが、やっぱり振り返らずに進めていくのがいいんじゃないかなと思います。

このゲームは細かいところが凄く作りこまれていてプレイヤーを飽きさせないです。 写真を撮ると強制的に美しい姿のものに変えてしまうキャラクターや、恥ずかしくて顔を手で覆ってしまうキャラクター。 クラクションを鳴らすと白鳥が真似して鳴き、水の中に落ちてしまった作業員は流された先の海に浮かんで楽しんでる。 横断歩道を渡ろうとすると車が止まり、寒い場所では主人公が体を震わせ吐く息が白くなる。 それらのこだわりはゲーム開始時にすでに仕込まれていて、探検に必要なリュックサックを入手せずに部屋から出ようとすると、テレビのチャンネルが変わり「リュックサックがトレンドになりました!」という特報が流れ注意を向けさせる。 そういった多くのこだわりの中で、私が最も驚いたのはスタンプを押し直せるということです。スタンプ集めを頑張っているとギュウギュウになってしまうのですが、いつでも押し直すことができます。だから押し方など気にせずに押しまくろう。

TOEM。 A PHOTO ADVENTURE という副題は嘘ではない。写真を撮って探検を進め、写真を撮って探検を終える。そしてアルバムを眺め、その道のりを思う。その体験は写真を撮るということと切り離せません。 魔法の現象「トーエム」を見るとき、その感動と積み重ねられたナラティブが、探検の終わりを拒むでしょう。しかしそれに打ち勝ち写真に収め故郷に帰ろう。たとえ涙が流れたとしても、バスに乗りエンディングを見る頃には、心地よい疲れと安堵に包まれているはずだから。

2022年9月16日に新たなエリア「バストー」を追加するアップデートが配信されました。たぶん発売1周年ということなんだと思います。本当に素晴らしいプレゼントです。 バストーはメインストーリーをクリアしてからじゃないと行けないエリアです(*)。ストーリーをクリア済であれば、自分の家でおばあちゃんからの手紙を読んだあとで行けるようになります。 公式な説明によればプレイ時間は1~2時間くらいになるとのことです。私の場合はゆっくりプレイして2時間でコンプリートできました。スタンプ集めなどで分からないものもありましたが、それについては攻略情報に頼りました。 TOEMについては何となく後ろ髪を引かれるような思いがあったのですが、このアップデートによって、しっかりとプレイ体験を終わらせることができました。 ※ 2022年10月27日のアップデートによりメインストーリーをクリアしていなくてもバストーに行けるようになりました。スタートメニューで「新しい冒険」を選んで「本編クリア後のコンテンツにジャンプ!」をオンにして開始すれば、おばあちゃんの手紙を読むところから始めることができます。ただし、新しい冒険を開始すると現在のセーブデータは削除されてしまうので注意してください。また、「本編クリア後のコンテンツにジャンプ!」を利用すると強制的にストーリーをクリアした状態となります。そのため、ストーリー未クリアの場合はゲームプレイがとても奇妙なものになってしまうので、このオプションを利用するかどうかは慎重に判断したほうがいいと思います。