ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド

  • Nintendo Switch/Wii U
  • 2017年3月3日

"ゼルダは以前からこうだった" って勘違いしてしまうくらい、いきなり自分にとっての基準になってしまったゼルダです。 本当に "新しい基準" になりました。

自分にとってゼルダといえば、スーパーファミコンの「神々のトライフォース」でした。 時のオカリナで3Dになりガラっと変わってしまいましたが、何か別の部分で、常に神々のトライフォースが頭の中にありました。 2016年のE3で公開されたトレイラーの、メインテーマが流れてパラセールで飛び出すところで「これ、神々のトライフォースだ」って思いました。 目の前には森が広がり、遠くには高い山が見える。神々のトライフォースを頭の中で思い描いたときの、ボンヤリとしたイメージがハッキリと示された瞬間でした。

神々のトライフォースは2Dなので、ハイラルの風景とかを見ることはできません。全体マップで大雑把に確認することはできますが、"リンクが見る風景" をプレイヤーは見ることができません。でも実際にその場所に行ったとき、例えばデスマウンテンに立って、「下には城と自分の家、左は森とカカリコ村、狭い道を通って今ココにいる」っていう感じで頭の中で何となく映像を作り出します。そしてハイラルの世界がプレイ体験として残ります。 風景などは全て頭の中で想像しているので、ハイラルの世界は1つにつながった大きな世界でした。マップ切り替えなどがあっても頭の中ではつながっていました。

時のオカリナから3Dになりましたが、でもプレイ体験としては神々のトライフォースを3Dにした感じでした。さらに、プレイ体験としては3Dにした感じなんですけど、ハイラルの世界がバラバラに思えるっていう不思議な感覚もありました。 3Dになってからはリンクが見る風景をプレイヤーも見ることができるようになりましたが、なんとなくバラバラに切り離されている感じがしました。 頭の中で想像するのではなく実際に風景を体験することができるので "フィールドの映像=ハイラルの風景" になります。想像して作り出す必要がなくなって、"フィールドの移動" ではなく "風景の切り替え" という感覚になりました。それで頭の中でバラバラになってしまったのかなと思ってます。

ブレス オブ ザ ワイルドは全てつながっています。ハイラルは本当に1つです。 遠くに山が見えたとき、「あぁ、あそこに行くんだな、どんな所だろう」って想像します。そして実際に行って、想像していたことなんか忘れて探索します。すると遠くに切り立った崖が見えて、「あぁ、あそこに行くんだな、どんな所だろう」って想像します。 そこに行って崖を登り見回すと高い山が見えます。それが先に探索していた山で、「あの山だ、あんなに高かったんだ」って驚きます。 さらに探索をして、高い所に登って見回したときに塔が見えて、「あれって、もしかして始まりの塔だよね」って思った瞬間、始まりの台地を出て山を探索して崖を登って今ここにいる、というプレイ体験が残ります。 そしてマップを確認したときに、あんなに広いと思った始まりの台地が広い広いハイラルの小さな小さな一部だと理解して呆然とします。

今していることも、これからすることも、これまでしてきたことも、全てが1つにつながるゲームです。あそこからここに来て次はあそこに行く。その繰り返しが最後は凄まじい達成感のようなものにつながります。しかも進め方が自由なのでプレイヤーによって全く違う体験になる。 意外にも難しい戦闘に苦労した "戦いのハイラル" だったり、登って飛んで料理して風景を堪能する "探索のハイラル" だったり。 岩とかを吹き飛ばして遊んだりマスクでボコブリンと遊んだり "おバカのハイラル日記" になってしまうこともあると思います。

ゲームプレイですが、戦闘が意外とキツイです。ボコブリンとか相手でも油断しているとゲームオーバーです。とにかく集団で襲ってきてヤバイです。6体とか相手にするとヒドイことになります。 戦いかたは自由で、相手のスキを見つけて両手剣を振り回す、盾で防ぎながらコツコツと倒していく、弓矢である程度弱らせてから突っ込む。そんな風に色々な戦い方を楽しめます。夜の寝ている間に不意打ちで倒すってこともできます。 専用のBGMが流れる凄く強い魔物もいて、防御力が低いうちは一撃でハート10個くらい減るとかあります。攻撃のパターンとかが分からないときは逃げ回ることになるかもしれません。

戦闘がキツイのですが、そのままプレイすることも可能だし、防具を強化してラクに進めることも可能です。リンクを強化するのもしないのもプレイヤーが自由に決めてかまわない、という仕組みです。 ある4つのスキルは中ボスを倒すと必ず入手することになりますが、設定で無効にできるうえに、その中ボスと戦わなくてもストーリーはクリアできます。 "キャラクターが強くなりすぎるのがイヤ" って場合は弱いまま進めることができます。 探索をしてアイテムなどを集めていけば戦闘も探索もラクになっていくのでストーリーのクリアもラクになります。でも時間は多く必要です。探索をせずに進めると戦闘はキツイですが短時間(それでも長いですけど)でクリアできます。

ゲームを進めていくと「チャレンジ」というのが発生するのですが、このチャレンジは無視してもいいし楽しんでもいいという自由さです。始まりの台地でのチャレンジはクリアしなければストーリーが進まないのですが、それ以外ではストーリーのクリアに関わるチャレンジというのは1つしかないんです。ストーリーのクリアに必要なチャレンジは「ガノン討伐」だけです。 「1つだけって言っても、その中に面倒なサブクエストみたいなのが一杯あるんでしょ?」って思ったりもするのですが、本当にガノンを討伐するだけです。始まりの台地を出ていきなりガノンと戦うことができます。そして倒すことができればエンディングです。 各種族の協力を得てガノンを倒すっていう流れを完全に無視して、スタート→ラスボス→エンディングっていう、なんていうか自由すぎるにもほどがあるって感じです

オープンワールドなゲームの特徴として、いわゆる「馬鹿ゲー」的な楽しみ方ができるっていうのがあります。 ブレス オブ ザ ワイルドは物理演算を活用しているので岩などを吹き飛ばして遊ぶとかっていう楽しみ方ができます。凄く楽しいです。 また、探索を進めると魔物に似せたマスクを手に入れることができるのですが、これを装備してボコブリンで遊ぶとかできます。ボコブリンがたくさん集まってきたところでマスクを取ると一斉にリンクを指差して悔しがります。これが面白くて何度もやってました。

ストーリーはリンクが過去の出来事を思い出すことで作られていきます。 リンクはマスターソードに認められた剣士です。しかし、ガノンが現れたときに傷を負って倒れました。そしてゼルダの指示で傷を癒すために回生の祠で眠らされました。それが100年前の出来事です。やがて目覚めたリンクは記憶を失っていた、というところからブレス オブ ザ ワイルドは始まります。 せつないです。過去を思い出せば思い出すほど、せつなくなっていきます。 プレイをしていると、高い所から落ちたりあっさりボコブリンに倒されたり自分の投げた爆弾に吹き飛ばされたりトカゲを追いかけ回したり、どうしても間抜けというかマイペースというか、リンクからはそんな感じを受けてしまいます。 でも彼はマスターソードに認められた最強の剣士です。そして、彼を100年の間、待ち続けている女性がいる。100年の間、待ち続けている仲間がいる。このギャップがプレイヤーの気持ちを惑わせます。 プレイが楽しくて声を上げて笑っても、彼らの過去を知れば知るほど、胸が苦しくなります。 始まりの台地のチャレンジを全てクリアすると「四体の神獣を解放せよ」というチャレンジが発生します。神獣はガノンが現れた時のための兵器なのですが、100年前にガノンに乗っ取られてしまいました。 神獣を解放すると、その神獣はガノンに狙いを定めて待機します。狙いを定める赤い光を放つのですが、その光はハイラルのどこにいても見ることができます。プレイヤーは「もうちょっと、もうちょっと待ってて」という感じで探索を進める感覚になります。 4体の神獣を解放し4本の赤い光を見つめたとき、それまでのプレイが鮮やかに思い出されます。 降り続ける雨とスタルフォスに苦しんだゾーラの里への道のり。熱い場所に愛馬を待たせているのも忘れて必死で登ったデスマウンテン。可愛い5人(5羽?)の子供の歌に癒されながら、いつかは北に広がる雪の山を踏破すると誓ったリト族の村。意味もなく裸になりスナザラシを楽しんだゲルドの砂漠。 そして神獣解放以外のハイラル探索のプレイ体験はプレイヤーによって違います。装備を強化するために、ひたすら素材を集めたかもしれないし、ウツシエを集めて回ったかもしれないし、ライネルと戦い続けたかもしれない。マスターソードを手に入れていないプレイヤーもいるかもしれません。 でも、どんなプレイであっても、神獣と4人の仲間そして王女ゼルダは、リンクがガノンと戦うときを待っています。 ガノン討伐までのプレイ体験がプレイヤーによって違うっていう感覚は、自分にとって本当にオープンワールドなんだと感じさせてくれる体験でした。

動物を狩り肉を手に入れ料理して食べる、魔物を倒して素材を集め装備やアイテムを強化する、ボコブリンの集団と戦う、いつでも好きなときにクリアすればいいガノン討伐。 これだけのことなんですが楽しいです。 そしてハイラルの広さ。この広さと自由さを全て楽しもうと思ったら、プレイ時間180時間コースです。300時間とかになることもあると思います。 下手すると、記憶を失った剣士が探索を楽しむだけって話になってしまうかもしれません。 自分の場合は夜光マスクに上半身は裸という、絶対に記憶取り戻してないよね、って格好でエンディングを迎えてしまいました。ガノン討伐直後のシーンが台無しになってしまいましたが、それでも感慨深いエンディングとなりました。

シリーズものというのは思い入れのもとになる作品があると思います。基準とする作品です。自分の場合は神々のトライフォースだったのですが、ブレス オブ ザ ワイルドをプレイしたらブレス オブ ザ ワイルドがゼルダの基準になってしまいました。ゼルダシリーズの中から外して、なんていうか "ハイラル王国物語" みたいな感じで、純粋にそのゲームを楽しむって感じです。 今後のゼルダがどうなるのかは分からないですが、でも多分、このブレス オブ ザ ワイルドを基準にしてしまうと思います。 神々のトライフォースの呪縛からブレス オブ ザ ワイルドの呪縛に変わっただけなのですが、自分の基準としていた作品を一気に過去のものにしてしまうゲームの誕生に立ち会えたのは、本当に嬉しかったです。

ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド その物語はプレイヤーが決めます 「記憶を取り戻し、各種族の協力のもと世界と王女を救う物語」 「次々と魔物をなぎ倒す、記憶を失ったハイラル最強の剣士の物語」 「山を登り谷を超え海を渡る、行けない場所は無かったという冒険家の物語」 「なんとなくラスボスを倒し、なんとなく世界を救ってしまった男の日記」 どんな物語になるのでしょうか