聖剣伝説 レジェンド オブ マナ
- PlayStation
- 1999年7月15日
世界観好きシステム好きにはたまらないゲームだけど、だからこそプレイすることを躊躇してしまう禁断のゲーム。 通称 LOM。聖剣伝説 レジェンド オブ マナ。
LOMには世界観しかない。"マナ" という世界観があるだけ。だからLOMというゲームがプレイヤーに要求してくるものも1つだけ。その世界観の中に生きること。 マナって何? みんな何してるの? なんでケンカしてるの? サボテン君って何なの? ……。現実の世界を抜け出してLOMの世界に生きるとき、それらの疑問は消えてなくなります。マナはマナであり、何をしているのかは見ての通りであり、何故ケンカしているのかは聞いた通りであり、サボテン君はサボテン君である。 彼らの存在や価値観や行動の理由は現実の世界ではなくマナという世界観の中にある。様々な種族がいて、様々な生活がある。それらLOMの世界における当たり前のことに何の疑問も抱かなくなったとき、なに? なんで? という疑問は、現実の世界から見た疑問ではなくマナという世界観に従った疑問になります。そして、その疑問を解決するということは "どういうゲームなのか" について知るということではなく、プレイヤーが飛び込んだLOMという "ゲームの中の世界" を知ることと同じになります。
LOMは世界観が重要なのだとしたら、世界観とかどうでもいいプイレヤーは楽しめないのかという不安を感じます。でも大丈夫。世界観しかないというのはストーリー主導ではないということで、それとは別にゲームシステムがあります。ランドメイク、アビリティ、必殺技、装備の作成と改造、ペットの育成、ゴーレムの作成などなど。 これらのシステムは細かくて多岐に及ぶのですが、だから結局どういうことかというと、LOMは世界観などを楽しめない場合でも純粋にゲームとしてシステムを楽しむことができるということです。 まずアビリティと必殺技。どんなアビリティを習得するのかは装備しているアビリティによって決まります。あるアビリティを装備し続けていると、その上位性能的なアビリティを覚えます。 そして必殺技は武器によって覚えられるものが違い、その武器は11種類もあります。さらに、どのアビリティを装備しているかも影響します。ジャンプのアビリティを装備しているのであればジャンプを活用した必殺技を覚えるという感じです。 ペットの育成はまずモンスターのヒナを捕まえる必要があります。そしてエサを与えてステータスを強化することが可能で、そのためには果実を育て収穫する必要があります。 "果実を育て収穫する" というのは文字通りの意味で、まずトレントというしゃべる木に話しかけ種を食べてもらいます。そのあと時間(ゲーム内の曜日)が経過すると果実が育ちます。大きく育ったら果実の下に立って収穫して、さらに収穫箱まで運んでやっとエサとして与えることができるようになります。どの果実になるかは食べてもらった種によって変わり、ペットに与えたときの効果も果実によって変わります。 そしてさらに、ペットには性格があり、与えたエサによって性格が変わります。 ゴーレムの作成は複雑です。まず装備を材料としてボディを作ります。ボディの性能は材料にした装備によって変わります。次に、ゴーレムの攻撃方法を決めるロジックブロックを作成します。これも材料にした装備によって変わります。最後に、ロジックブロックをセットして行動パターンを決めて完了なのですが、相手との距離やアタックゲージというものを考える必要があります。近いときはパンチで遠いときはロケットという感じです。セットのしかたによっては複数のブロックで連鎖が発生します。さらに「故障」という設定があり、故障と判定されたときは攻撃に失敗します。 そして装備の作成と改造。何を材料にするか何を原料にするかが全てなのですが、改造による効果は数が多く仕組みも複雑です。ゲーム内で各原料の効果を確認できないということもあり、もはや攻略情報なしではムリという感じです。さらに魔法を使うことができる「楽器」も作成できて、どんな魔法かというのももちろん材料によって変わります。 これらに加えてランドメイクというマップを自由に配置するシステムがあります。ランドマークには属性が設定されていて、配置の仕方によって火の属性が高いエリアとか土の属性が高いエリアとかが出来たりします。
ゲームプレイですが、プレイ時間は予想が難しいです。20時間くらいでサッと終わらせることも可能ですが、ゲームの世界に浸って色々と楽しむと40~60時間くらいになると思います。システムを理解して装備の改造やペットやゴーレムを楽しむとかすると80時間以上になるかもしれないです。 LOMは "何をすればいいのか" ということをハッキリと示してくれません。良く分からないけどランドを設置して、良く分からないけど探索して戦って、良く分からないけどクエストが発生したので進めていく。そういう感じになると思います。その "良く分からないけどなんかやってる感" を繰り返しているうちに、何故か、本当に不思議なくらい、LOMの世界に没入し、自分はLOMの世界に生きていると感じることができるんじゃないかなと思います。
ゲームを進めていくと開放されていく様々なシステム。その複雑さにワクワクし、そしてプレイ時間の確保に悩まされます。ペット育てたい、ゴーレム作りたい、装備改造したい。その欲求を満たすには時間が足りないです。 やりたいことが多すぎて暴走した結果、真珠姫というキャラクターを連れて回るという謎な行動に至ったこともありました。 真珠姫は自身のHPを回復する「しゃがむ」というアビリティしか持っていません。そしてそもそも武器を装備していないので攻撃をすることができません。 戦うという要素がある以上、攻撃手段を持たないキャラなんて足手まといもいいとこです。でも、そんな真珠姫のことを守りたかった。やられてしまってもバトルが終了すれば何事もなかったかのように復活するので何もする必要はないのですが、それでも守りたかった。 真珠姫を守りたいと思った瞬間は今でもハッキリと覚えていて、真珠姫の行動パターンを確かめたくて闘技場で戦ってみたのがきっかけでした。予想していたとおり、ただ逃げながらしゃがんでるだけです。そして、頭を両手で覆ってしゃがむ姿を見たとき、とてつもない罪悪感に襲われました。別にブチのめしたいわけじゃなく行動パターンを知りたかっただけだなんですが、自分のその好奇心はLOMの世界に生きる真珠姫にとってはとても怖いものだったんだなと。それからは、まるで怖がらせてしまった償いをするかのように、自分は真珠姫を守りたいと思うようになりました。 今思えば "キミを守りたいごっこ" をしていただけだと思います。怖い思いをさせたくないのであれば、そもそも連れて回らないというのが正解なんですから。でもプレイしていた当時は、真珠姫を守りたいという自分の考えや理由をLOMの世界に受け入れてもらえたような感覚があったのを覚えています。
色々なキャラクターと出会っていくことで図鑑に説明が追加されます。そして「七賢人」と呼ばれるキャラクターと出会うことで、"過去に何があったのか" が世界事典に記されていきます。これが凄く重要です。この世界はどのような過去を経験し、それが今の世界にどう影響しているのか。それを知ることによって時間の流れという広がりが生まれます。 過去があって今がある。そして未来は主人公を含む今の世界に生きるものたちで決まる。プレイヤーはその世界の今に生きている。この強烈な感覚が世界事典を読むことで引き起こされます。 マナとは何なのか。常に付きまとうこの疑問はゲームの設定についての疑問ではなく、本当にそして純粋に、自分が今いるゲームの世界について知りたいということなんだと思えます。
夢中になれるLOMですが不満がないというわけではないです。ただ、それらはプレイスタイルなどで違ってくるので気にならない人は全然気にならないと思います。 個人的に凄く気になったのは、ゲームシステムをスルーしても問題なくゲームクリアが可能という点です。ペットも装備の改造も別に取り組まなくてもクリアできてしまいます。でもこれは、やり込みとか攻略とかに興味がない人も楽しめるようになっているということでもあると思っています。 その不満を解決するためには、ゲームを進めるうえで何かしらを、ある程度でもいいので強制的に取り組ませる必要があります。「○○するためには○○が必要だ!」という感じで。でもそれをしてしまうと、マナという世界観の中で生きて好きに楽しむという感覚から、これはゲームですよという感覚に引き戻されてしまうような気がします。2週目3週目となれば当然ゲームとして楽しむことになるのですが、それでも初見プレイ時の感覚は残っているし周回プレイの楽しさにも影響しています。 強制的にさせられていると気付かれずに、プレイスタイルに関係なく全ての要素を体験させるというのは難しいことなんだろうなと思います。
「RPGってなんだろう」という疑問を抱えながらRPGをプレイしていた自分に、LOMは答えを示してくれました。 住むものたちの言動や物語に触れることで、その世界のルールや価値観を想像する。現実の世界のルールや価値観ではなくLOMの世界のルールや価値観。 彼らは何をしているのか、何故そうするのか、何を悩んでいるのか、どうして悩んでいるのか。プレイヤー自身がその世界観に従った考えかたをすることができたとき、現実の世界の感覚では理解不可能な言動や物語が、たまらなく愛おしく、時には憎たらしく、そして心に深く突き刺さります。 そのプレイ体験は間違いなくLOMの世界に生きるというものであり、ひとつひとつの物語に触れるたび、その世界観に抱きしめられているような幸せを感じます。けれども、それはとても繊細で、少しでも現実を連想させるものが顔を覗かせると壊れてしまう。 そう、ゲームだなんてことは分かってる。けれども抜け出せないその世界。 聖剣伝説 レジェンド オブ マナ。