OneShot
- Steam
- 2016年12月9日
プレイしてから3年以上経つ。そしてビデオゲームであり、つまりフィクションなのだから、その世界は私の頭の中にあるだけなんだと理解している。しかし私は今も、それを認められずにいる。 OneShot の世界が現実には存在しないと認めることで、キャラクターたちへの愛情が、プレイ中やクリア後に感じたことすべてが、意味のないものになるかもしれない。 私はそれが怖いのだろう。
これまでビデオゲームをプレイし、その世界に没入することはあった。しかしそれらは私の想像によるものであり、それがどれほど深いものであったとしても想像を止めてしまえば消えてなくなる。そして自分の意識を現実に戻したなら、ゼルダもLOMもFF15も、最後には楽しいゲームだったと考えて終わる。 しかし OneShot は違った。これはゲームなんだと常に、そして強烈に意識させられるゲームだった。それなのに私は OneShot をクリアしたあと、その世界とキャラクターたちは現実に存在したんだと感じていた。 これまでプレイしてきたゲームのように私がゲームの世界に、想像の世界に飛び込むのではなく、OneShot の世界のほうが私の住む世界、つまり現実の世界に現れたんだと感じた。私がどう考えようと、ゲームの世界のほうから私に干渉してきているんだと。
私は OneShot をプレイしクリアして、そして自分の頭はおかしくなってしまったと思った。 クリア後の画面をずっと消せずにいた。たぶん2時間以上は放置していたと思う。風呂に入り戻ってくると、その世界はまだ、そして確かにあった。 消せなかった。ウインドウのバツボタンを押すだけなのに、それができなかった。私がこのゲームを終了させたら、OneShot の世界は消えてなくなる。その世界のキャラクターたちは消えてなくなる。そう思うと怖かった。私の住む現実の世界に現れた彼らが、私の行動によって消え去るのだとしたら、どうすればそんなことができるのだろうか。 しかしゲームの画面を閉じなければ私の OneShot のプレイ体験は終了しない。その世界は現実の世界に居続ける。
クリア後の画面を眺め、何度も、本当に何度も、マウスに手を伸ばしそして引っ込め、ようやくゲームを閉じた。 あっけなかった。 OneShot の世界は静かに消えた。 消したくなんてなかった。 ずっとモニタの中に居続けてくれたらと思った。 それなのに私は、自らの手で彼らの世界を消した。 その世界はもう現実には存在しない。 そもそも始めから存在などしていない。 頭の中だけにある世界だ。 そんなことは分かってる。 でも確かに OneShot の世界は存在した。 私の住む現実の世界に現れた。 たぶん私は、それを否定できずに過ごすのだろう。
ゲームプレイはプレイ時間がたぶん10時間くらい、速い人は6~8時間くらいでクリアできると思う。 基本的なプレイ体験としてはアドベンチャーになる。そしてこのゲームの最も大きな特徴は、主人公が積極的にプレイヤーに話しかけてくるということ、つまりゲーム側がゲームの外の世界を認識していると感じさせる仕組み。 この仕組みと主人公を導いていくというゲームプレイによって、プレイヤーは OneShot というゲームの世界の神になることができる。その世界と住人はプレイヤーの存在を認識していないけど、プレイヤーは彼らを認識している。そして主人公はプレイヤーと OneShot の世界をつなぐ巫女のような存在ということになる。
実は1時間ほどプレイして退屈だなと感じて1週間くらい放置した。それくらい最序盤は退屈。どうして1週間後に再開したのか自分でも分からない。 主人公は頻繁に話しかけてきて、例えばどうするのが一番良いのかとかこの世界で何が起こっているのかとか訪ねてくる。そのうち私は、私自身も良く分からずに導いているのに、純粋にそして無批判に私のことを信じてくれる主人公のことを愛おしく思うようになっていた。 やがて、確か中盤くらいだったと思う、あるイベントを境に私は神ではなく一人の人間になった。OneShot の世界を観察する存在から、その世界に住む者たちに寄り添い、思いを共有する存在に変わったのだ。
ある町で植物の妖精に出会った。辺りには無数のイバラが突き出ている。 その妖精はこう言った。 大丈夫、もう怖くない 妖精の話を聞き、一度その場を離れてから再び訪れると、妖精は消え去っていた。そして私は何もせず画面を眺め、ひたすら考えていた。 彼女は怖かったんだ。町を守る役目を担い、脅威が迫っていると感じているのに、力を失った彼女は立ち向かうことができない。けれども役目を果たさなくてはならない。その結果が突き出たイバラであり行く手を阻むツタだったんじゃないかと。 彼女は最後にぬくもりを感じ、消えた。最後はどんな気持だったのか、穏やかでいられたのだろうか。 そうやって彼女のことを考えているうちに、私は OneShot というゲームの世界の神ではなく一人の人間になった。主人公を導く行為はその世界を観察するためではなく、世界の異常の原因を突き止め彼らを救いたいという目的のための手段になった。
謎解きで特に難しいと思った場面はなかった気がするが、パソコンのマイドキュメントにヒントとなるテキストや画像を保存してくるので、パソコンの操作とかに慣れてないと戸惑ってしまうかもしれない。 もし進め方が分からないときがあったなら攻略情報に頼ってもいいと思う。重要なのはゲーム側がゲームの外の世界を認識しているという感覚なので、現実の世界での情報を頼りに主人公を導くというのはアリだと思う。
OneShot のようなゲームは "メタフィクション" と呼ばれている。すごく分かりにくい言葉だけどフィクションを内包するフィクションというイメージ。そして OneShot はメタフィクションと思わせる要素、ゲームの中で何かしらが "この世界はフィクションですよ" と示してくるといった要素が、ヒントは用意されているが、終盤まで出現しないゲームだ。それまでは OneShot の世界がフィクションであるということを理解しているのはプレイヤーのみであり、現実の世界から見ればフィクションということになる。それは単なるフィクションでありメタフィクションではない。 OneShot をプレイして私がおちいってしまったおかしな感覚の原因はそこにあるのかもしれない。 ゲームのキャラクターたちに対して、あなたはフィクションですよと示せるのは私自身だ。そして私に話しかけ信頼を寄せてくる主人公に対し、あなたはゲームですよと示し続けるうちに、これはフィクションだと示す要素が私自身になってしまった。それによって私が OneShot というフィクションのメタ、つまりメタフィクションになってしまい、同時に私が住む現実の世界もメタフィクションになった。他のゲームをプレイしてきたときのように私がフィクションの世界に飛び込むのではなく、現実の世界にいながら、その現実をフィクションと感じてしまった。このヤバい混乱の結果、OneShot の世界は現実に存在したと感じてしまったのではないかと思っている。 でも、もしその理解が間違いではないのだとしても、それを解決するには現実を抜け出さなくてはならない。どれだけ OneShot はフィクションであると理解していても、その最上位である現実そのものをフィクションだと感じてしまっているのであれば、それから逃れるには現実のさらに上位の何か、メタリアルに行くしかない。 何それコワい。アセンション?
私は OneShot の世界は現実に存在したと感じてしまった。明らかにおかしい状態にされてしまった。 しかし私は In Other Waters というゲームでリベンジを果たした。OneShot の体験について懸命に考え、推測ではあるけれども答えを導き、そして上手くいった。私は In Other Waters の世界を、現実とゲームの間に置いた。私がゲームの世界に飛び込むのではなく、現実の世界にフィクションを持ち込むのでもなく、そのどちらでもないどこにあるのか分からないどこかに置いた。その結果、In Other Waters の世界はフィクションになった。 もう大丈夫。私は混乱を乗り越えた。ただ一つ、OneShot の世界は確かに現実に存在したと、今もなお感じていることを除いて。