Chicory: A Colorful Tale

  • Steam
  • 2021年6月11日

日本語未対応だったときの感想です。現在は日本語でプレイ可能です。 プレイ体験としてはアクションアドベンチャーになると思いますが、色を塗ったり絵を描いたりすることを楽しめるかどうかも影響すると思います。

上の画像は初めてゲームを起動したときのスタートメニューの画面です。 初めてプレイするときは真っ黒な画面に文字だけです。 この真っ黒な画面がやがて下の画像のようになります。 これは自分で色を塗ったスタートメニューの画像です。ゲームを進めていくとスタートメニューに色を塗ることができるようになります。つまり、このスタートメニューはプレイヤーによって違うということになります。 どの色にするか、どのように塗るか。その結果が、自分は確かに Chicory をプレイしたという実感につながります。 プレイしたことのない人にとっては別になんでもないこのスタートメニューが、自分にとってはゲームプレイのすべてを思い出すことができる、とても大事な "私の Chicory: A Colorful Tale" です。

このゲームは、キャラクターや物の輪郭が黒で描かれていて他は真っ白です。そこに色を塗っていくことができます。そして、塗らなくてもいいです。 ある人は好きな色で塗りつぶしていったかもしれないし、ある人は楽しい模様を描いていったかもしれない。主人公の色は固定だったかもしれないし、いつも違う色に塗り替えられていたかもしれない。好きな場所は気合を入れて塗ったかもしれないし、好き嫌いではなく隣のマップとの色のつながりなどを重視したかもしれない。それらはプレイヤーがどのようにこのゲームを楽しんだかの違いになります。 この色を塗るという遊びが物語と強く絡み合い、そしてゲームを進めることにストレスを感じることもあるくらいに、プレイ体験に深く刻み込まれていきます。

色を塗るということがこのゲームの大きな特徴ですが、それは単なる要素の一つではなく、ゲームを進めるために必要なことであり、そして物語に大きくかかわっています。 主人公の住む世界はゆっくりと色褪せていくので、放っておくといつかは白と黒の世界になってしまいます。そのため、誰かが補修したり塗り替えたりして色を維持しています。その役目を担う者は "The Wielder" と呼ばれ、代々受け継がれる特別な筆を振るい、世界の色を維持します。 しかしある日、世界は突然すべての色を失います。その異常な状況の中で、主人公は Wielder の役目を引き継ぎます。色を塗って探索ルートを確保し、色を塗ってお店を繁盛させ、色を塗って住人たちとの関係を築いていく。Wielder となった主人公は、世界の色の管理人として、失われた色を取り戻すために駆け回ることになります。 やがて主人公は、自分に筆を引き継いだ先代の Wielder である "Chicory" の苦悩を知ることになります。そして、どうして突然すべての色が失われたのかという問題と深くかかわっていくことになります。

プレイ中は、それがストレスになることがあるくらい、色を塗るということと向き合うことになります。 どんな色にするのか、どう描くのか。頑張っているけど満足できない、"完璧" を目指している自分。そして悩みを抱え始める。 どうして自分はいちいちマップの色を気にしてるんだろう。どうして一枚の絵を描くために、こんなに本気になって、こんなに悩んで、そして下手くそな絵を残しているんだろう。 そんなことを思いながらもゲームを進めていくと突き当たる決定的な悩み。 「あんなに楽しかったのに、何でこうなっちゃったんだろう」 何だかゲームが楽しくない。どうやっても満足できないという怖さにも似た感覚、そして面倒くさいという思い。 そんなプレイヤーの悩みが先代の Wielder の苦悩と重なり、プレイヤーの思いは主人公の思いでもあるという感覚におちいります。まるで主人公が「Wielder なんて全然楽しくない」と語っているかのように思えてきて、そして世界に引き起こされている "異常" を解決したいという主人公の決意は、それがゲームプレイを再び楽しいものにしてくれるかもしれないというプレイヤーの願いでもあると思えます。 Wielder になること、Wielder であること。色を塗るというゲームプレイが、Wielder の苦悩を理解し実感することに貢献していると思います。

ゲームプレイですが、プレイ時間はストーリーを追っていく感じであれば10~12時間ほど、じっくり探索などを楽しむのであれば14~16時間ほどじゃないかなと思います。ただし、これは英語がペラペラな人の場合です。会話などのテキストの量が多いので、辞書で単語とか調べながらという感じだと相当な時間になると思います。自分の場合は探索などもじっくりこなす感じで進めて、クリア時に60時間を超えてました。 プレイ体験としては、基本的にはアクションアドベンチャーになると思います。様々な能力を入手することで探索範囲が広がるという仕組みです。 サブイベントもいくつかあって、手紙の配達とか授業で絵の課題をこなすとかあります。それとフォトモードもあります。主人公のポーズや画面のエフェクトがたくさん用意されていて、お気に入りのマップなどの画像を保存できます。 メインストーリー以外の要素はゲームクリアに影響しないので、先にストーリーをクリアしてしまってから他の要素を楽しむという進めかたでも問題ないと思います。ただ、これは実際に確認してないのですが、ストーリーなどの進み具合によって会話が変わるキャラクターの場合、前の会話は聞けなくなってしまうことがあるかもしれないです。そのため、キャラクターの会話を楽しみたいのであれば、コツコツと話しかけながら進めたほうがいいかもしれません。

色を塗るのは単純に筆で塗るだけでなく、まとめて塗りつぶすこともできます。スタンプみたいなものやパターンを利用して色々な模様も描けます。 ただ、塗りつぶしやスタンプを利用するには "Brush Style" というアイテムが必要なので、それらがないうちは筆で塗ることしかできないです。この Style は宝箱から入手できます。 複数のパターンで順に上塗りすれば割と複雑な模様も描けます。

主人公の衣装が凄く大量に用意されていて、ほとんどは宝箱から入手できます。 可愛らしいシャツもあれば怪しげな着グルミもあります。本当に大量にあるので、すべて集めるのはかなり大変だと思います。 帽子と服を別々に選べるので色々な組み合わせを楽しめます。

マップに設置できる装飾品も大量にあります。椅子やカーペットといった家具や植物などです。これらは集めたゴミと交換することができます。このゴミも大量にあるので、すべて集めるのはやっぱり大変です。 装飾品は建物内だけでなくフィールド上に置くこともできます。椅子を設置すると他のキャラクターが座ってくつろいだりします。

会話用のテキストも大量に用意されています。すべてのキャラクターに話しかけることができて、さらにすべてのキャラクターに3つ以上の会話が用意されています。ストーリーの進行によってさらに会話が増えるキャラクターもいます。 中には「最近の若者はダメじゃ。住人とのコミュニケーションを楽しもうとせん。話かけたとしてもすぐにBボタンでキャンセルしよる」とグチるキャラクターもいます。これは下手するとゲーム自体に対する自虐になってしまうのですが、大量の会話が用意されていることにより、「楽しいテキストが用意されていないのだから読むわけないよね」という、何かしらのメッセージであるように感じることができます。

先へ進むには探索ルートを見つけないとダメなのですが、凄く見つけにくかったり謎解き的なものがあったりして割りと難しいです。また、マップに目的地が表示されるとかもなくて、そもそもどこに行って何をすればいいのかが分からないときもあります。ですが、それに対して面白い救済措置が用意されています。 マップのあちこちに公衆電話が用意されていて、両親に電話でヒントを聞くことができます。 まず先にお母さんが目的地などのおおまかなヒントをくれます。そのあとお父さんとも話しをするかどうか聞かれます。そこで話すのを選ぶとお父さんもヒントをくれるのですが、その内容が「1つ左のマップに行って少し上に行くと分かりにくいけど道があるんだ、そこを通ったら○○して次に△△すると□□できるぞ」とほぼ答えを教えてくれます。なので、どうすればいいかが分からないときは迷わず電話してしまえばいい思います。 また、新しいヒントをくれるタイミングはかなり細かく設定されているので、分かっていても電話をかけてみるという楽しみ方もできます。例えば初めてのボス戦の前に公衆電話まで戻ることができるのですが、そのときのお父さんのヒントも面白いです。「まず戻るんだ。そして真っ黒なモヤの中に突っ込め!とても怖いだろうが人生なんてそんなもんだ」という感じで励ましてくれます。さらにヒントの終わりかたが「父さんを信じろ、父さんもお前を信じてる」という感じだったり「お前は素晴らしい子だ、愛してるよ」という感じだったりと何パターンか用意されています。こういった要素はテキストを読むという楽しみかたに対するこだわりを強く感じることができて、個人的には凄く嬉しいです。

Wielder であることの苦悩が描かれるストーリーは凄く重要です。その苦悩に突き当たるまでは、主人公の Chicory に対する憧れは盲目的で無批判で、何かしら危なさを感じることもありました。けれども悩みを乗り越える過程で、主人公は Wielder である前に主人公であり、Chicory は憧れの存在である前に Chicory であるという理解に辿り着き、二人は何かしらの共感を得られる "Friend" になれたんだと思えます。 そして二人が何を選び、それが世界にどのような変化をもたらしたのかを見届けたとき、プレイヤー自身の描いてきたものが、とても愛おしく思えてきます。マップを眺め、描いた絵をギャラリーで見直して「なんだかんだで凄く楽しんだよね」と思いました。

Chicory: A Colorful Tale。 そのゲームの仕組みとストーリーが上手く絡み合い、ゲームプレイを通して Chicory の悩みや主人公の成長を実感できる。そして、同じゲームの同じ仕組みを利用して遊んだはずなのに、その結果はプレイヤーによって違う。 ときには楽しみ、ときには面倒に思い、そして悩みぬいて作り上げたもの。それらはそのプレイヤーのみのものであり、プレイヤー自身の大事なナラティブであるということを実感させてくれるゲームだと思います。 けれども、色を塗るという遊びであるこのゲームは、多くの人には選んでもらえないかもしれない。傑作になることを拒否した怪作だと思います。

最後に、主人公の(つまり自分の) Wielder としての初めての模写の課題を公開したいと思います。 これを公開することは自虐的のように思えますが、自分がいかに Chicory を楽しんだかの証明にもなるような気がします。 先にオリジナルの紹介です。タイトルは「Here in the Garden」。 これを見たときに自分が気になったのは "毛の色" です。毛の色によってこのキャラクターの内面などの印象が違うものになり、それによって描かれる物語が変わり、結果として絵の印象が変わるに違いないと思いました。 きっと毛の色を決めることができればほとんど完成したも同然だろうと描き始め、そして出来上がった絵がこちらです。 この課題はサブイベントとして発生するもので、他にもたくさんあります。別に真面目にやらなくてもゲームクリアに影響はないのですが、毎回本気で挑んでました。30分くらいかけて描いたときもあったくらいで、課題に挑むときは「よし課題だ、やるぞ」と気合を入れてました。 振り返ってみれば、自分の Chicory のプレイ体験はこの課題から始まったような気がします。