Bioframe Outpost
- Steam/Nintendo Switch/PlayStation 4, 5/Xbox One, XS
- 2024年11月7日
「Rain World」の系譜。傑作の類。 生物たちのメカニクスは作りこまれている。そして、それらは生態系を形成している。しかしこのゲームが推奨するゲームプレイはよりタクティカルでパズル的だ。Rain World のように偶然に助けられながらも即興で乗り切るのではなく、多くのアイテムを抱えてアクションの手順を思い描くというゲームプレイになる。 テラフォーミングコロニーであるノヴァオーロラ。そこで目覚めた主人公のフリーマンは記憶を失っていた。設備は壊れ、動植物とロボットたちはスクリルと呼ばれるウィルスに感染している。 古い端末のスピーカーから聞こえる声。スタンリーと名乗るその人物は、自分が治療法を確立できると考えているが、外に出てサンプルを集めることができないと語った。 スタンリーに協力を求められたフリーマンは、感染した生物とロボットのデータを集めるため探索を始める。
ゲームを開始してすぐ、私は不安だったし、なんならクリアするまでずっと不安だった。 「行かないんじゃない。私はそんな臆病じゃない」 必要なキーがないんだ。あんな高いところには今は届かないし。 そうやって自分の臆病を隠してみても、ゲームは報告してくる。 「キーを入手しました!扉を通れます!」 いや通れなくてもいいし。チョウチョいっぱいて危ないじゃん。 「ジェットパックです!飛ぶことができるようになりました!」 飛ばなくてもいいから。絶対ロボットとかいるでしょ。 そこに嬉しさは……あると言えばある。しかし不安がそれを上回る。 本当に行かなければならないのだろうかと取りあえず5分くらいマップを眺め、 「行かなければならない」 と覚悟を決める。
唯一のやすらぎの場は探索の拠点ともいえるサイエンスハブの研究所だ。もちろん全然安全ではなくて、普通にロボットが爆弾を投げつけてくる。しかしチェックポイントが設置されていて、HPや各種装備の燃料なども補充できる。だから気持ちは軽い。しかもロボットが投げてくる爆弾は拾うことができ、それを生物やロボットに投げつけて倒すこともできる。 爆弾はだいたい探索の途中で無くなるが、それは私が臆病だからではなく狙うのが下手だからだ。若干乱暴だが、そのロボットは大事な爆弾を補充してくれる装置だから、倒してはいけない。 そして準備を整えたら、マップを眺め自分に言い聞かせる。 「さあ行こう、私には頼もしい相棒たちがいる」 例えば恐ろしい巨大なクモは、なぜか無害な青いチョウチョを怖がる。やはり巨大なハチたちは、ハキノミと呼ばれるノミを恐れている。チョウやノミといった小さめの生物たちは消火器で凍らせれば持ち運ぶことができ、そして恐ろしい生物たちの前でそれらを解放すれば安全を確保できる。そうやって生物たちの特徴を理解し利用しなければ進めない。
別のバイオームに移動すると、もはや進むしかなくなる。やすらぎの研究所に戻るには、先へと進みテレポーターを起動するしかない。 「ああそうさ。私は臆病なんだ」 そう認めれば少しは楽になる。 なにが? このゲームをプレイしている理由がだ! なんで? こだわらなくて済むからだ! なにを? スマートな攻略!なめらかなアクション! 下手くそなの? 私は生き延びたいんだ! そう、生きるという原始的なコンセプト。 生物たちを写真に収め、その特徴を把握する。そして私はその生態系の一部だから、生きるためには自分を正しく理解するべきだ。 私の特徴: 好奇心旺盛 道具を使える 他の生物を捕獲できる 臆病 逃げ足が速い 分かった。びくびくしながら進もう。それが私だ。ジェットパックの燃料が尽きたのなら歩けばいい。消火器が切れたのなら逃げればいい。そして青いチョウチョを従え、ノミを解き放ち、食い物で気をそらし、進もう。 戻ってもそこに道はない。進めばその先に、やすらぎの研究所が待っている。
ゲームプレイについては、まずプレイ時間は12~16時間くらいで幅があるはず。ディベロッパーによればスピードラン的なプレイで6時間くらいも可能とのことだが、絶対嘘だと思った。しかしゲームの上手い人は本当に上手いので本当なのだろう。私はゲームクリアに関係のない場所なども探索して23時間だった。 ストーリーはスペース・ホラーだが、サスペンスのようにも思える。主人公のフリーマンは何者なのか、協力を求めてきたスタンリーは何者なのか、そしてノヴァオーロラで何が起こっているのか、それらは時系列的に遡っていく形で語られる。プロット的には進んでいるが、プレイヤーの理解を過去へ過去へと向かわせるその構成は、他のキャラクターたちが残したログなどで深みと広がりを得て、ゲームの世界にプレイヤーを閉じ込める。 ストーリーの進行に影響しないミッションが割と無節操に発生して混乱することもある。それらの中にはどこに行って何をすればいいのかよく分からないものも多いが、今は行けない場所だったりもするので、とにかく探索すればいつかは解決する。 アクションはストレスがなくスムーズで、それらのメカニクスは丁寧に調整されている。ハシゴの登り降りに若干戸惑うかもしれないが、すぐに慣れるはず。
動植物やロボットたちを写真に収めると、それらの特徴を知ることができる。しかし一回の撮影ですべて知ることはできない。 生物たちには様々な状態があり、どの状態で撮影されたかによって得られる情報が異なる。例えば攻撃しているときであれば攻撃についての情報を得られるし、何かに怖がっているときであれば何を恐れているかを知ることができる。そして、撮影することで一定時間スタンさせることができ、すでに得ている情報の種類が多いほどスタン時間は長くなる。 これがこのゲームの重要なシステムで、生物たちの情報は生き延びるために必要なだけでなく、その世界の生態系を実感させるための仕掛けにもなっている。それらの情報を得ることはゲームの仕組みを知ることではなく、ゲームの中の世界について知るということであり、プレイヤーがまるでその世界に生きているかのような感覚を提供する。その体験はロールプレイに近い。 そして生物たちに命とその活動を与えているメカニクスは見事で、主人公を含めた36のすべての動植物とロボットたちに異なるメカニクスを採用している。それらは視覚だけでなく足音や距離に対しての反応などもある。そして、ある生物の存在に恐怖する様子や光を嫌い逃げ惑うコウモリの姿は、その生物たちは確かに生きていると思わせるだけの説得力がある。
探索はタクティカルで、食べ物で気をそらしたりスクリルに感染させて無効化するなど、生態系を上手く利用した進め方を求められる。また、スクリルの発生源を破壊すると、その周辺の感染していた生物たちが活動を再開する。それによって探索が難しくなる場合もあるので、先に周辺を探っておくといった選択が有益なときもある。 決して急かされることのないゆったりとしたゲームプレイだが、コンプリートがどうだとか考えている余裕はない。いや考えてもいいのだが、不安がそれを拒否しがちだ。進めるのなら進み、進めないのなら進む方法を考える。ただそれだけだ。 新しい装備を入手すれば探索範囲が広がるが、それによる嬉しさよりも「果たして戻ってこれるのだろうか」という思いのほうが大きい。そして深く進みすぎたときの不安は凄まじいが、それを乗り越えて突破した時の達成感と安心感も同様に凄まじい。
映像は薄く暗めな色合いで、かつ立体感を出さない平坦なものになっている。シェイディングはフラット・シェイディングのみに見えるが、暗い部分と明るい部分の配置が絶妙。それらの色気の無さは決して味気無さにはならず、むしろ不安や不気味さを強調する。 そして、たぶんボリューメトリック・ライトだと思うのだが、重要な設備などに施されているさりげない光源処理は、無機質で色気のない背景とは逆の色鮮やかさと相まって、そこはテクノロジーの発達した世界であることをプレイヤーに思い出させる。 それらに加えて、床や壁を突き破って成長する植物、だらしなく垂れ下がり露出している配線、そしてときおり吹き出す蒸気などが、ノヴァオーロラにあるすべてが有害に思えるほどの不気味さを醸し出している。
音楽はアンビエントだが、丁寧に統一された音色のサウンドは、しっかりとスペース・ミュージックとして機能している。 基本的に中低音と中音を鳴らしている。そして Attack ではなく Sustain に注目するシンセティックなドローン・サウンドは、絶妙に丸みを帯びて Lo-fi と Hi-fi の間にあり、探索に集中している間は聞こえていないようで聞こえているという存在感になっている。 そうした音楽はゲームプレイに対して興奮でも冷静でもない中立を提供し、そしてその中立はプレイ中のプレイヤーの思いの変化に応じて、そのときどきで印象を変える。たとえ同じ曲であっても、ときに恐ろしく、ときに美しいその音楽は、その曲を記憶したときのプレイヤーの感情によって姿を変えるだろう。 もちろん音楽自体も主張してくるときだってある。例えば何かしらのシークレットを見つけたときは嬉しさや安心を表現し、ゲームの進行におけるプロットに到達したときは不気味さを表現する。それほど多くはないが、低音を強調したり Growl を聞かせて恐怖を煽ったりもしてくる。それらの音楽は、安堵と恐怖を行き来するこのゲームの体験に貢献している。 個人的にはサイエンスハブの曲「Lo Batt Glow」が大好きで、中低音の忙しいベースと中高音のゆったりしたメロディの対比によるそのテクスチャは、大きな安心感と郷愁を提供してくれる。しかしそれは、もしかしたら臆病な私だから得られた印象であり、その印象は私自身のプレイ体験によるものなのかもしれない。
Bioframe Outpost。 カメラを装備し生態系を利用するそのゲームプレイは、その世界に私たちを閉じ込める。それは不安で、不気味で、陰鬱で、そして意味の分からない世界だが、それでも私たちに安堵の瞬間を提供する。無害なハリネズミや奇妙な音を立ててついてくるチョウチョたちは可愛いし、恐ろしいクモも屈強なサイも、好物や弱点を知れば、それほど悪いものでもない。 マップの奥へと進むにつれ膨れ上がる不安は凄まじいが、なぜだろうか、私はすべてを見て回りたいと思った。 「戻れなかったらどうする?」 そのときは、より臆病になるだけさ。 臆病が、私の長所だ。