Firegirl: Hack 'n Splash Rescue DX

  • Steam/GOG/Nintendo Switch/PlayStation 4, 5/Xbox One
  • 2021年12月14日/2022年6月23日

少し風変わりなステージクリア型のアクションで、アーケードタイプのゲームプレイが好きかどうかが重要。 このゲームをシステム単位で分解してみると、それらはスコアアタックやローグライトといった言葉で説明できるかもしれない。しかし、それで済まないような独特のプレイ体験がこのゲームにはある。

実際のゲームプレイにおいて、分解したシステムを個別に体験することはできない。あるいは無理矢理にゲームプレイそのものを分解することで可能かもしれないが、というかゲームをレビューする人たちはそれをやっているのだが、Firegirl: Hack 'n Splash Rescue はシステムを個別に体験したところで楽しめるゲームではない。 まずプレイヤーはファイアガールとしての未熟さにうなだれ、その悔しさでもってシステムの分解とメカニクスの理解に挑むだろう。そして分解したシステムを再び組み合わせて全体を理解し、その理解でもってゲームプレイを上達させ、やがてファイアガールとしての成長を実感するだろう。 そこに、このゲームのナラティブがある。

主人公は父と同じ消防士の道を歩む女性。ファイアガールと呼ばれる彼女は消火活動を続けるうちに謎の魔導書を見つけ、ある陰謀に巻き込まれていく。 消火活動中にときおり見つかる魔導書を集めるとストーリーが進み、最後はラスボス戦となり、倒せばストーリークリアだ。ドラマティックには描かれていないが、かなりしっかりしたものなので楽しむべきだ。

アクションは放水とジャンプそしてアックスの3つ。放水はツインスティックシューターのような操作も可能だが、放水中は移動できない。ジャンプは普通のジャンプだけでなく、放水を利用したジャンプもある。放水中にジャンプするとより高くジャンプしたり、ジャンプ後に放水を続けて空中を移動することもできる。アックスは障害物を取り除いたり扉を破壊するのに使う。 これらのアクションのうち放水によるジャンプが難しく、慣れるまでに時間がかかる。しかしこのアクションは非常に重要なので、一旦ステージクリアを無視してでも時間をかけて上達させたほうが良い。

ステージは4種類あり、どれになるかはランダムだ。マップは自動生成なので毎回異なるが、おそらく時間がある限りそのマップをプレイし続けることができるようになっている。 そのマップ内で生存者やペットを救出するのだが、ステージクリアの条件が独特だ。生存者を救出できたかできなかったかに関係なく、ファイアガールが出口までたどり着ければクリアできるし、ファイアガールが倒れてしまったとしてもクリアできる。そしてどちらの場合でも報酬がもらえる。 それならば、ひたすらミスを繰り返しているだけで報酬によってお金が貯まっていくのかと思うかもしれないが、その通りだ。このゲームはステージクリア型だが、クリアすることが目的ではなく、いかに多くの生存者とペットを救出するかを目指すゲームだ。そして、どうあってもクリアはできるが、すべての生存者を救出してファイアガールも無事に脱出できれば報酬は多くなる。

ステージクリア時の報酬はすべての生存者を救出すればより多くもらえるが、その金額はファイアガールのファンの多さで決まる。そしてファンの数は生存者やペットを救出することで増えていく。このファンたちがファイアガールの活動に対して募金をしてくれるのだ。 ここで重要になってくるのが、マップ内で発見した生存者とペットは必ず救出されるというシステムだ。たとえファイアガール自身は脱出できなかったとしても救出される。このシステムにより、ミスで報酬を逃し続けたとしてもファンは増えているため、そのあとの消化活動ですべての生存者を救出し無事に脱出したとき、驚くほどの金額の報酬を得られる。 この報酬の喜びにより、時間切れやミスで脱出できなかったとしても、できることはやったという満足感のようなものを得られる。その感覚は、状況によっては脱出をあきらめて生存者やペットの捜索に切り替えるという判断をさせるほどのものだ。これは1ステージに要するプレイ時間は5分ほどという短さだからこそできる判断だ。

救出した人物の中には消防署でスタッフとして働いてくれる者もいて、お金を払って雇うと様々なアップグレードが利用可能になる。アップグレードは放水の強化や到着時間短縮などの難易度に影響するものだけでなく、ファンの増加数アップやアップグレードのコストダウンといったものまである。 また、消防署の隣には防火服などを購入できるお店があり、購入することでダメージを1回吸収してくれるシールドを得られる。 さらに防火服には3種類の勲章を付けることができ、それらの勲章は各チャレンジを達成すれば獲得できる。この勲章も、たとえファイアガールが脱出できなかったとしても獲得できるというシステムなので、無理してでも、あるいは脱出できないのを承知で、獲得に挑むという判断をプレイヤーに促している。 これらの様々な要素を利用すれば消火活動は安定したものになっていくのだが、多くの失敗と労力を費やして獲得したファンによる募金額は、ファイアガールの成長とプレイヤーの上達を強烈に実感させてくれる。

ゲームプレイについては、まずプレイ時間は取りあえずのクリアが4時間ほどだ。そのあとは飽きるまでとなるが、長くても合計で8時間程度だと思う。 基本はハイペースなゲームプレイだ。1ステージ5分ほどという短さなので、とにかく出動して消火活動を繰り返すというスタイルが向いている。じっくりとあれこれ考えて攻略するというスタイルでは間違いなく退屈なゲームとなる。 アクションはアップグレードや防火服などの装備が充実していない序盤が難しい。マップが自動生成なので覚えて乗り切るということはできないうえに、時間制限があるのでゆっくり考えている余裕はなく、素早い判断が必要だ。もし序盤を乗り切れそうになかったら、火炎のモンスターは倒す必要はないということを意識してプレイしてみよう。倒さずに進めるのであれば、その分だけ水を節約できるからだ。 どのステージも生存者の救出をあきらめて脱出することは可能だが、ここはやはり生存者やペットの救出を優先して欲しい。それこそがこのゲームの醍醐味であり、そのシステムにより大きな没入感を得られるはずだ。

アップグレードは悩みの種になるだろう。たとえば放水が強力になったとしても活動時間が短ければ意味がないし、逆に活動時間が長かったとしても放水が弱いと厳しい。そのあたりのバランスを考えてアップグレードしたほうが良い。 それじゃ私はどうだったかというと、ひたすらコストカットしていた。しかし聞いてほしい。これには理由がある。私は放水によるジャンプ操作が上達せずに四苦八苦していた。そのため、しばらくは無事に脱出することをあきらめて操作の上達を目指した。そしてその間は放水のアップグレードなどは必要なかった。しかし自動生成マップの運に助けられてファンからの募金を得ることもあったので、それをコストカットに充てていたのだ。 そして、結果としてだが、それが上手く機能した。操作を上達させるために繰り返し挑み生存者とペットを救出するうちに、多くのファンが応援してくれるようになっていたのだ。その報酬によるアップグレードで消火活動能力は突如インフレを起こし、操作の上達も相まって凄まじい快感を味わった。その感覚はもはやハクスラに近いと言えるほどだった。

装備やアップグレードが充実してくると、1つのマップで延々と消化活動を続けることができるようになる。1つのステージを20分以上プレイすることも多かったが、モンスターの数が徐々に増すため緊張感も大きい。また、システムを把握してしまえば、効率の良いファンの増やしかたも分かってくるだろう。 そして、ネタバレになるので詳しくは書けないが、ライト・アックスを購入すると、さらに素晴らしい性能のアックスがアンロックされる。これがとても強いのだが、他の商品とは別の場所に置かれているためアンロックされたことに気づきにくい。しかもライト・アックスを購入してすぐではなく、一度消火活動を終わらせるかメインメニューに戻って再開するとその場所へ行けるようになっているのだ。私はまったく気づかなかったため、そのアックスの購入はストーリークリア後になってしまった。しかしそれでも、その装備名から想像されるゲームプレイは私を興奮させ、そして正にその興奮を得た私は、ファイアガールとして消火活動を繰り返した。

Firegirl: Hack 'n Splash Rescue は特に奥深いシステムが用意されているわけではない。ステージの種類も4つしかなく驚きのようなものも長くは続かないだろう。しかし、主人公が脱出できなかったとしても評価すべきものは評価するというシステムが、ファイアガールとして活動するプレイヤーの誇りと喜びを維持させてくれる。 ステージをクリアすることではなく、その過程に重みを置くことで、驚くほどのリプレイ性を実現したローグライトかつハクスラ風味なスコアアタック型アクション。これが Firegirl: Hack 'n Splash Rescue の正体だ。