Sorry We're Closed
- Steam/GOG
- 2024年11月15日
ローポリ3Dのホラーゲームで、独特の絵柄。 トレイラーを見るとコンバットに注目したゲームプレイに思えるかもしれない。実際にアクションの要素では狙って撃つという操作を要求され、そこに苦労することもある。しかしプレイ体験はアドベンチャーに近くて、テキストや探索を楽しめるかどうかもやはり重要だ。 別れた彼女を忘れられないミシェル。仕事を終えて帰宅し眠りにつくと、不気味なお化けに話しかけられ、夢の世界に迷い込む。そこで夢喰いという司書に襲われたが、謎の人物に助けられ現実に戻った。 しかし、ミシェルはそのお化けによって第三の目を植え付けられていた。
第三の目は重要なメカニクスで、探索とコンバットの両方で活用することになる。 探索においては、人間と悪魔の世界の両方を見通すことができ、残留している記憶を見ることもできる。人間の世界にいるときに使用すると、その場所の悪魔の世界での風景を見ることができるという感じになる。 コンバットにおいては悪魔たちの弱点を見ることができ、弱点を攻撃すると大きなダメージを与えることができる。また、悪魔が第三の目の効果範囲内に入ったときに使用すると、短時間ではあるが動きを止めることができる。
移動は三人称視点で攻撃は一人称視点に切り替えて行うというメカニクスになっている。 武器は斧、ピストル、ショットガン、ハートブレイカーの4つ。第三の目を使用しているときは、その範囲内の悪魔の弱点にしか攻撃が当たらず、銃も第三の目の範囲外には届かない。 ハートブレイカーはストーリーを進めると入手できる特殊な武器だが、割と序盤で手に入る。ハートブレイカーの使用にはチャージが必要で、チャージが満タンになるとハートブレイクショットを撃てるようになる。チャージは悪魔にダメージを与えると増え、弱点への攻撃が連続で成功するとコンボとなりチャージ量が増える。 ハートブレイカーでしか倒せない強い悪魔もいる。
ゲーム内ではワオという通貨があり、それと交換で武器などをアップグレードできる。ワオはマップに落ちている遺物を入手して商人に売れば手に入る。一応ワオをもらえるサブクエストもあるが、確か2つくらいしかなかったと思う。 サブクエストは豊富に用意されている。主要なキャラクターについてのクエストはチャプターをまたいで進行し、そしてプレイヤーの選択によってその結末も変わる。 テキストも非常に豊富で、会話だけでなく日記や本あるいは絵などの各オブジェクトについてもテキストが用意されている。ストーリーの進行やサブクエストなどについてのログも細かく記録され、あとで確認することができる。 また、プレイ中は攻撃の命中率や倒した悪魔の数などが集計されていて、1つのチャプターをクリアするごとにそれらの統計が表示される。
ゲームプレイについては、まずプレイ時間は8~12時間と幅があるはず。会話や各オブジェクトのチェックなどをどれくらい楽しむかでかなり違ってくると思う。また、会話時の選択によるサブクエストの結末の違いや、メインストーリーのエンディングの違いも確認すると20時間以上になるかもしれない。 とにかくテキストが豊富で、プレイヤーをゲームの世界に没入させことに貢献している。人間の姿をしていても第三の目を使用すると悪魔であることが分かるキャラクターもいるのだが、それぞれで会話が変わる者もいる。もちろんストーリーの進行に応じてすべてのキャラクターとの会話も変わる。そして、これはと思うものはだいたい調べることができ、それぞれに説明のテキストが用意されている。それらもやはり第三の目を使用中に調べると説明が変わる物がある。 そうしたテキストを読むということに対するこだわりは素晴らしいと思う。
細かい部分で色々と気配りがされていて、例えば遺物については、商人に売却してもコレクションの確認画面からは消えないようになっている。二度売ることはできないが、どのような遺物を入手したかをいつでも確認できる。これは地味に嬉しい。そして、ストーリーやサブクエストのログは本当に細かく記録され、ゲームの進行についてじっくりと整理することができる。 また、死亡すると直前のチェックポイントから再開することになるが、チェックポイントは短い間隔で配置されているのでリトライ時のストレスは少ない。 コンバットでは銃で撃つという操作が重要になるが、その際のエイムについてもアクセシビリティが用意されていて、さらにアップデートによってエイムアシストも追加された。そしてさらに、体力を回復できる水を無制限に使用できるようにするという設定もある。 ストーリーを楽しみたいけど悪魔が倒せないという場合は、それらのアクセシビリティを利用してしまえばいいと思う。
設定はとても面白くて、実は街の知り合いが悪魔や天使だったりする。 人間の世界のテクノロジーといったものも利用していて、天使が天界からの仕事をリモートでこなしたりしてる。そしてミシェルの次の目的地をパソコンで検索してくれたりもする。天使の仕事には迷子の子猫の世話といったものもあるらしい。天使にも様々なやり方があり、制圧ではなく防衛と被害の回復を重視している者もいる。悪魔は悪魔で、人間の世界のレコードショップに通っていたり、悪魔の世界のホテルの食事の質を気にしたりしてる。 そうした悪魔と天使の日常はミシェルたち人間の非日常を作り出しているが、ゲームを進めるうちにその非日常は夢見心地に変わり、やがてミシェルにとってもプレイヤーにとっても日常となる。 プレイヤーをいきなり不気味な日常に放り込むのではなく、まず非日常を実感させ、それが気づかぬうちに日常となり、最後は本当の日常に戻る。この体験は、まさにホラーならではだと思う。
ミシェルに第三の目を植え付けたのは侯爵夫人という悪魔で、悪魔にとっての癒しの道を見つけようとしている。そのために必要なものが愛で、それによって永遠の苦しみから解放されると信じている。 侯爵夫人は愛がどういったものなのかをよく分かっていないが、人間が持つ "心の傷を癒す力" が愛によるものだと考えている。そしてミシェルを特別な存在だと感じている侯爵夫人は、ミシェルに対して自分を愛するよう要求する。 このゲームはLOVEを描いているが、それは決して内省や賛美ではない。むしろ劣等感からくる憎しみや、優越感からくる蔑みといった様々な苦悩でもってキャラクターたちを苦しめ、LOVEに対しての盲目的な期待や都合のいい定義による狂気に正面から向き合っている。 このゲームの世界で描かれるLOVEは、ミシェルにとってもプレイヤーにとっても、どれも正しく、そしてどれも間違っている。LOVEを知る人間すらも迷い苦しむのに、LOVEを知らない、LOVEに耐性のない悪魔と天使が、どうすればその苦悩から解放されるだろう。 だったらどうすればいいのか。適切なLOVEの実践とは? あなたと私、そして個と社会における秩序と倫理。それらが一致し共有されているときが、適切なLOVEを生み出すのだろうか。 生み出す? LOVEは生まれるもの? 求めるLOVEは苦悩か。与えるLOVEは苦悩か。 苦しみからの解放に必要だと信じているその愛が、自身を苦しめ続けるならば、それは悲劇だろうか。
音楽は素敵。基本的にエレクトロニックなサウンドでリズムに注目したものが多い。
街では全体をダウンテンポの不安なテクスチャで統一しながらも、平穏なダイナーや天使の領域とも言える教会ではノスタルジックな安心を抱かせ、悪魔がかかわるバーではキックを強調して緊張感をあおる。そしてコンバットが待ち受ける悪魔の領域では、不気味なドローンによる実験的なサウンドで脅し、プレイヤーの歩みを遅らせる。それぞれの状況に応じたそれらの音楽は、そこがどういう場所なのかを想像できるほどに、しっかりとゲームの世界を表現できている。
また、第三の目を使用すると、どの曲であってもリズムが消え、リバーブの効いたローファイなサウンドへと滑らかに移行する。
そんな中で唐突に始まった最初のボス戦の曲「Jenny」には驚いた。このダークな Nu metal は、私の不安と緊張を「やらなければ殺られる」という興奮に変えた。そして因縁の悪魔でもある「夢喰い」の曲「Dream Eater」では、さらにシンセティックなパイプオルガンとコーラスが加わり、独特な悪魔と天使的な曲となっている。
大好きな曲は教会で流れる「Church」。この曲は強めのキックと複雑なハイハットにシンセピアノのハーモニーとクラリネットのゆったりしたメロディーを乗せるというアレンジで、第三の目を使用中はノイズ交じりのローファイなサウンドに変わる。このエレクトロニカはとても心地よくて、初めて聴いたときは第三の目を使ってみたりして10分くらい楽しんでいたと思う。
音楽は本当に素敵だが、ひとつ残念なことがある。それはゲーム内に登場するマチルダの音楽を聴けないこと。マチルダはポップスターとして有名で、街のレコードショップにはコーナーが特設されている。しかし私たちは、そのサウンドをポスターやジャケットのアートワークから想像するしかない。
Digicore? Digital hardcore? Post-punk? Emocore? もしかして Melodic metalcore?
どんな音楽なんだろう。
Sorry We're Closed。 ビビッドなマゼンタをキーカラーとするミシェルは、LOVEの苦悩を示しているのだろうか。では、人間の世界では同じくマゼンタだが悪魔の世界では異なる色となる侯爵夫人はどうだろう。そのLOVEは狂気にも見えるが、それは人間の世界からはそう見えるという話なのかもしれない。 これは言葉の限界か。ミシェルのLOVEと侯爵夫人のLOVEは、同じLOVEであっても言語化の結果は異なる。しかし、どちらかが正しくてどちらかが間違っているとどうして言えるだろうか。 ならば体験にゆだねよう。映像と音楽と、そしてコントローラーを操作するというこのゲームのナラティブは私に何を語ったか。 それはホラーだ。だからLOVEはホラーだ。このおしゃれなタイトルのゲームは、LOVEを描く舞台としてホラーが最適であることを示したのだ。 そういうことにしておこう。