Spiritfarer

  • Steam/GOG/Nintendo Switch/PlayStation 4/Xbox One
  • 2020年8月18日/2020年9月29日

1人でゲームを楽しんでいるのなら、涙を流すことを必要としているのなら、そのときに泣いておくべきだったなと思います。 主人公であるステラは「スピリットフェアラー」の役目を引き継ぎます。そして船を改造し、「迷える魂」たちの部屋を建て、作物を育て、料理を作り、布を織り、彼らの "心の準備" を待ちます。 そうやって彼らに寄り添いながら最後の願いを叶える手助けをし、旅の終着点であり魂の出発点でもある「エバードア」で彼らの旅立ちを見送ります。

迷える魂の1人「グウェン」。全てのプレイヤーが最初に出会い、そして最初に別れることになるキャラクターです。 彼女はいわゆるチュートリアル的なキャラクターで、彼らに出会うとどうなるのか、何をすればいいのか、そういったことを教えてくれます。 ハグをして、好きな料理を食べてもらい、部屋を飾り、織機の使い方を教えてもらう。そうやって一緒に旅をしていると訪れる別れの予感。何かが変だ、これが最後かも、と。彼女に呼ばれて話を聞くと「エバードアに連れて行って。準備はできてる」。 エバードアで彼女と別れ船に戻り、彼女が残してくれたものを見つける。それが何なのか、それによって何が出来るのかを理解したとき、これが彼女からステラへの最後の教えなんだ、彼女から "プレイヤーへの" 最後のチュートリアルなんだと気付きます。 それは、"別れなければ進めない" ということ。そしてプレイヤーは覚悟を決めることになります。あと何回、これを繰り返すのだろうかと。

迷える魂たちと出会うことでステラの能力を強化し、別れることで先に進むことができる。 キャラクターを強化しアイテムを入手して障害を乗り越え進んでいく。このアクションアドベンチャーの仕組みが別れと出会いによってデザインされることで、ステラの役割をプレイヤーに体験させることができていると思います。 そうしてゲームを進め、いよいよ本当に最後だとエバードアに向かったとき、流れないように乾かしてきたはずの涙が、一気に溢れ出ます。 イヤというほど気付かされる。私は彼らに会いたかったんだ、もう一度ハグしたかったんだと。別れを理解していながらも、でも、ずっと一緒に旅していたかったんだと。 別れるたびに耐えてきた、夜空を見つめるたびに乾かしてきた涙。ちゃんと小出しに流しておけば良かったと思います。本当に。

ゲームプレイですが、Steamストアの説明にはプレイ時間は30時間、やり込めば50時間以上となっています。ゲームに慣れている人は「え?長いんじゃない?」と思うかもしれません。私も実際にプレイするまでは12~15時間、やり込んで20時間以上というイメージでした。でも実際に40時間くらいは考えたほうがいいと思います。 このプレイ時間の長さは一つ一つの行動に時間がかかるということが影響しています。船で移動するときは本当に時間をかけて移動しなければならないし、作物を収穫したりするときなどもボタンをポチポチ押して完了というのではなく、構えて振って切ってという感じでモーションを待つ必要があります。そのため、例えば栽培やクラフトなどを効率よくやっていきたいというプレイスタイルの人はストレスを感じるかもしれないです。

迷える魂たちを送り出すには栽培やクラフトが必要ですが、それらは自動化できないので大変だったりもします。5人くらい船にいたときは腹減ったとか同じもの食わせるなとか早くあの街に行けとかあれ作れとか、テンヤワンヤとは正にこのことかという状態でした。 こいつら本当にワガママだなと思いながらも、1人また1人と減っていくたびに感じる寂しさ。あんなに料理作り頑張っていたのに、いなくなると「あれ、なんでコレ作ってんだろ」って。なんでコーヒーを畑に植えてるんだろって。もう喜んでくれる人はいないという寂しさ。忙しく動き回っていたのは自分のためなのか彼らのためなのか分からないけど、でも、喜んでくれる人がいるから作ってたんだなということに気付かされます。

ラストは考察が必要なのかなという感じになっています。ステラって何者なのかとか。 最後はステラとダフォディルだけでエバードアに向かいます。見送ってくれる人はいません。彼女は迷える魂たちが旅立つ手助けをしてきたけれど、同じように彼らはステラ自身が旅立つ手助けをしてくれていたのかもしれないと感じました。ステラ自身も結局は迷える魂だったのかなとか。 この辺は海外のwikiに色々と書いてあります。公式なものなのかファンによる考察なのか分からないですが、各キャラクターについて物凄く詳細に書かれていて、もしかしたら自分がゲーム内で色々と見落としていただけなのかと思うくらいです。 本当に詳しく書かれています。クリア前に見ると間違いなく興ざめすると思うので注意してください。 Spiritfarer Wiki(英語)

あくまでも「迷える魂たちに旅立ってもらう」ということがメインになるので、栽培やクラフト自体を楽しむという体験にはならないと思います。そのため、純粋にゲームとしてシステムなどを楽しみたいという人には物足りないかもしれません。ですが、そのゲームの物語を、今風に言えばナラティブを、しっかりと感じたいというプレイヤーにとっては、ゲームクリア後にずっとスタート画面を眺めてしまうような体験になると思います。 ただ、自分にとって凄く意外だったのは "2週目が楽しかった" ということです。こういったゲームは1度クリアしておしまいということも多いのですが、何気に最初から始めてみたら凄く楽しかったです。1週目は船とかの改造も最後までやらなかったのですが、一番大きいサイズまで拡大したら凄かったです。デカすぎ。でも楽しい。この船のデカさを利用して一度にどれくらいの魂たちと旅をすることができるのか試してみたいなとか思いました。"別れなければ進めない" のだから、限度はあるに決まってるのですが。